会議監督 | 小野 将(横浜国立大学4年) |
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議題 |
2025年に向けたEUの統合戦略「経済通貨同盟の強化について」 Deepening of the Economic Monetary Union |
議場 |
The Economic and Financial Council (EU経済財務理事会) |
使用言語 | 公式/非公式/決議=日/日/日 |
設定日時 | 2017年12月27日~30日 |
こんにちは!日吉研究会4年の小野将と申します。このたびは第29回模擬国連会議全日本大会にご関心をお持ちいただきありがとうございます。
今回の議題は、欧州統合にまつわるものです。EUが転機を迎えているのは皆さんもご存知の通りだと思います。昨年6月に、欧州随一の大国である英国がEUを去る決断をしました。これにより、EUでは現行加盟国人口の下位16カ国分に匹敵する人口が減少し、GDPは2割減ることが予想されています。また、シリア内戦で発生した数多の難民が今も欧州に流れ込み、EUの基盤的価値の一つである「人の移動の自由」が深刻な脅威にさらされています。そして何より、欧州域内で経済的繁栄を享受する北部の国々と長期の構造的不況に苦しむ南欧諸国の乖離が一層進んでいます。
こうした種々の問題を抱えたEUですが、これまで、たくさんの重大な危機にさらされてきたのも事実です。二度と戦火を交えないよう、独仏の経済協力から統合が始まり、変動為替相場制への移行に対して最終的には通貨統合という解を出してきました。
欧州統合の父として知られるフランスの政治家ジャン・モネは「ヨーロッパは危機を通じて形成され、危機に対する解決策の積み重ねとして構築されていく」と語りました。今回の会議で焦点を当てる「加盟国間の経済格差」という構造的な危機に対応するにも、財政統合をより一層深化させていかなければならないと、私は思います。
以上を踏まえて、経済収支黒字国(ドイツなど)から赤字国(ギリシャなど)への平時における財政移転メカニズムを設けることや、EUによる各国の経済財政へのガバナンスについて、欧州経済財務理事会を舞台にみなさんと一緒に考えたいと思います。
「再考」
国際的な潮流として進行してきたグローバル化の「綻び」が顕在化する今、統合により利害と対立を乗り越え幾多の危機を克服してきたEUの将来像を考えることは、目指すべき「より良い世界の」あり方を考える手がかりを与えてくれるはずです。EUの再考を通じて、これから私たち一人一人が当事者として生きていく社会のあるべき姿を、一歩立ち止まって一緒に考えてみませんか。
EUの代名詞ともいえる「経済通貨同盟(EMU, Economic and Monetary Union)」の強化が今回の議題です。単一市場(経済同盟)と単一通貨ユーロ(通貨同盟)からなるEMUは、両替や種々の貿易障壁の撤廃、為替変動リスクの消失などを通じて、国を跨いだ交流・貿易・投資の増大をもたらし、加盟国に多大な便益をもたらしてきました。
その一方で、通貨を統合する必然の帰結として、各国は自国の経済状況に即した金融政策(金利引下げなど)や為替政策(レート切り下げ)の裁量を完全に失うこととなりました。経済苦境を抜け出すための政策手段が大きく制限されているといえます。ゆえに、単一通貨を用いる地域の中では、そうした裁量喪失を補完しうる「財政移転」(例:日本における地方交付税交付金)の必要性が声高に叫ばれてきました。しかしながら、大口の拠出国になる国々(西欧諸国)の財政負担増大や、南欧諸国の放漫財政の温床になる可能性、そして財政主権の移譲への懸念などから、そうした仕組みはユーロ創設当初から禁止されてきました。
昨今のユーロ危機によって、南欧諸国と北欧諸国の経済力の乖離が鮮明になって、ユーロ制度の危機対応力を高め、格差の収斂を促すものに改革する議論が進んでいます。Brexitにより統合のブレーキ役が去り、親EU論者のマクロン大統領がユーロ圏共通財政の創設を掲げるなど、これまで目立った進展を見せてこなかった財政統合にむけた機運が高まってきているといえるでしょう。
財政移転制度の欠如が、ユーロ危機の一端であるという見方は根強いです。公共財としてのユーロの将来にわたっての安定に向けて、諸国が歩み寄ることができるのかが問われています。
議題である「EUの経済通貨同盟の強化」に基づき、以下の論点を設定します。
【大論点①】 2025年を見据えた、ユーロ圏における財政移転について
小論点(例)
・財源をどのように確保するべきか。
・管理当局はどうあるべきか。当局として新たにユーロ圏財務省を設けるべきか。
・使途は不況対策のみに限定されるべきか、構造的な不均衡の是正にまで広げるか。
・「モラルハザード」を防ぐための施策。
【解説】
大論点①は、本会議の主眼である、「通貨同盟内における加盟国間の財政移転」についてです。2025年の実現を念頭に、財源や使途、管理の在り方はどうあるべきかなどの大きな枠組みを話し合ってもらう予定です。欧州委員会による白書(EMUの深化に関するリフレクションペーパー,2017年5月31日)などでも枠組み案が言及されているので、ゼロから議論するというよりは、そうした提案などをベースに議論を深めることになると思います。
議題解説で述べたように、通貨安定を担保しうるこのような仕組みの必要性はユーロ構想の初期から叫ばれてきました。経済発展の度合いが比較的低い南欧諸国はそうした枠組みを通じた経済力の格差是正を主張しています。ただその一方で、そうした仕組みにおいて財政負担を強いられることが予想される西欧の国々において後ろ向きな声が強いことも事実です。加えて、財政移転に依存することで放漫な財政運営を招いてしまう「モラルハザード」などを懸念する声もあります。そして何より、こうした仕組みが、将来的なユーロ圏における本格的な財政統合の端緒になりかねないとして、財政主権移譲に躊躇する向きもあります。
【大論点②】 加盟国の経済財政へのガバナンスについて
小論点(予定)
・現状の制度(新財政協定、ユーロプラス協定など)への評価
・2025年に向けてどのように改変していくべきか
【解説】
加盟国の経済財政状況などについて、EUによる監視や統治の余地をどのようにしていくべきかを考える論点です。加盟国は、労働市場などにおける構造改革の進捗度を欧州委員会に毎年審査され、毎年度の財政赤字を対GDP比3%、累積債務を同じく60%以内にとどめることを義務付けられるなど、経済運営や財政運営に関して非常に強い統治をしています。こうした規制が西欧諸国の主導によって強まった背景には、南・東欧諸国と北・西欧諸国との経済力の乖離がユーロ圏の不均衡と不安定の火種となったことや、ギリシャの虚位申告を見抜けなかった既存の弱いガバナンスへの反省があります。
ただ、急進的な痛みを伴う改革押し付ける一方で、改革に伴う財政的な支援(大論点①を参照)が不在している現状に対して南欧諸国をはじめ反発の声もあり、主権の侵害との声も上がっています。さて、EUによる今後の経済財政への統治のあり方はどのようなものであるべきなのでしょうか。
〇欧州統合(EU)や主権統合、地域経済統合などに興味のある人
〇経済系のトピック(経済政策、金融政策、財政政策)に興味のある人
〇史実をなぞるのではなく、模範解の無い現在進行中の問題に向き合いたい人
〇少人数の議場で、シンプルに実質議論・交渉を楽しみたい人
〇ペアデリで会議に参加したい人。
議題の特性上、EUや欧州統合、もしくは通貨統合や財政統合という地域統合に関心のある人にはぜひ参加してもらいたいです。一見すると経済系の議題ですが、「政策の財源の負担はどうするのか」、「EUの超国家性と加盟国主権のバランス」といった政治的な要素も含みます。経済学の知識があると取り掛かりやすい部分はありますが、フロントがゼロからサポートするので経済学に触れたことがない人も是非参加してください。
今回は議場を2017年12月のEU経済財務理事会に設定しております。これは統合にブレーキをかけてきた英国の離脱や、ユーロ圏改革を掲げ当選したマクロン仏大統領、4年に一度の総選挙(9/24投開票)を終えたドイツなど、影響力のある国の現況を反映させるためです。現在進行形の議題に向き合いたい人にぜひ参加してほしいです。
今回の会議は、標準的なプロシージャ―を用いたシンプルで極めてオーソドックスなものだと思います。だからこそ、小手先のテクニックよりは、確たる議題理解と会議準備が非常に重要になる会議です。腰を据えた実質議論と交渉、合意形成を経験したい人にぜひ参加してほしいです。
*オブザーバー
※ペアデリ制なので、原則ペアを組んでお申し込みください。
国選びにおいては、軽くリサーチをしたうえで希望国を選ぶことをお勧めします。そのうえで、以下をポイントにリサーチをしてみてください。
・資金拠出国になりえるか、受入国か?
まず第一に、大論点①において資金を出す側に回るか、資金を受け取る側に回るかという点で大きくスタンスが分かれます。大論点①の「財政移転」の枠組みにおいては、高い経済力を誇る北・西欧諸国(ドイツ、フランス、オランダ、など)が、PIIGS(Portugal, Ireland, Italy, Greece, Spainの頭文字を合わせたもの。ユーロ危機において経済危機が懸念された国)を始め長期の経済停滞に苦しむ南欧諸国の支援に回る構図が予想されます。拠出国の場合は、財政移転制度については慎重な態度をとり、モラルハザードを防ぐ目的で規制などの厳格化を求めることが予想され、一方で受益国側になる国々は、財政移転制度の創設を求めることが予想されます。
・国の規模・EUにおける影響力
通常の模擬国連会議と同様に、国によって発言力や影響力が異なります。経済規模、EU内の大国(独仏など)との関係、自国の欧州統合への関わり(加盟年など)、歴史などを調べ、国々のEUにおける立場を調べてみることをお勧めします。とりわけ、今回の議場のECOFINでの採決は、人口比を組み込んだ特別多数決制を採用するため、人口規模は投票における影響力の大きさと直結します。
大国は、リサーチ資料も豊富で、国のスタンスを調べるのは比較的容易と言えます。また、議論を主導する立場ともなり得るので、大国の立場から会議を引っ張りたい人にはオススメです。中堅国・小国は大国に比べて、リサーチ資料などが中々出て来ないので、国の現況をもとに論理的に、国益や立場を導くことになるとおもいます。また、大国よりも、より中立的な視点やEU益の実現を目指す立場から会議に臨みたい人にオススメです。
※特別多数決制:加盟国数の72%以上に加え、全人口の65%以上の賛成を可決の条件とする、EU理事会の採択方式。
・ユーロ圏/非ユーロ圏
ユーロの未導入国に対しても、国によって考え方が異なります。ユーロ圏と非ユーロ圏という二重化構造への懸念がある一方で、あまり経済力の高くない国にいたずらにユーロを導入させることでユーロ圏内の経済力の乖離を懸念する声もあります。ユーロ導入に二の足を踏んでいる国(ポーランドなど)であった場合、進んでユーロを導入できるような環境整備を整えるという目的でユーロ圏改革に臨むことも可能です。
会議監督/小野 将/横浜国立大学/4年/日吉研究会
副会議監督/竹田 理恵/東京外国語大学/4年/国立研究会
議長/太田 篤/慶應義塾大学/4年/日吉研究会
秘書官/窪田 和也/早稲田大学/3年/早稲田研究会