模擬国連は、1923年にアメリカのハーバード大学にて開催された「模擬国際連盟」にその原点があります。国際政治の仕組みを理解し、国際問題の解決策を考える過程を体験できることから、教育プログラムとしても高い評価を受け、現在では世界中の大学・高校において授業に採用されるほか、学生の課外活動としても楽しまれています。
模擬国連を端的に説明すると、参加者一人ひとりが一国の大使(外交官)となり、国連をはじめとした国際機関などで行われている様々な会議をシミュレートする活動です。交渉力・分析力・論理的思考力・英語力など様々なスキルを必要とされ、長きにわたり知的好奇心あふれる若者を魅了してきました。
会議前の活動
一つの国際問題に焦点を絞って国際会議をシミュレーションするにあたり、まず参加者は担当国を1つ選びます。担当国が割り振られた参加者は、大使として会議に臨むことができるように、議題となる国際問題や担当国の内政状況・外交政策などについて調べます。これを「リサーチ」と呼び、リサーチの手始めに「Background Guide」(通称BG)と呼ばれる、議題解説書が配布されます。
しかし、このBGを読むだけではリサーチは不十分です。大使として模擬国連会議に臨むためには、国際問題を理解するだけでなく、担当国について調べることで自国のスタンスを定めたあと、会議でするべき提案の内容や、会議中の振る舞い方を考えなければなりません。そこで参加者は、専門雑誌・学術論文・国際機関の報告書や実際の国際会議の決議文書などを利用してさらなる情報収集につとめ、担当国の立場から議題への知識を深め、会議中の提案や行動を自ら考えます。
会議中の活動
実際の会議でも模擬国連会議でも、会議を通してなされる意思決定は成果文書として形に残されます。そこで参加者は、担当国の大使として自国にとって有利な内容の成果文書が残るよう様々な提案を行い、それらへの支持を集めるために行動します。こうした行動には議場の大使全員に向けたスピーチや他国との個別交渉などがありますが、各国の主張には様々な利害関係が絡み合っており、参加者は国際問題の複雑さや解決することの難しさを実感することとなります。
全参加国の同意を得た解決策を成果文書として残すことは容易なことではありません。しかし議論を真摯に行えば、各国のスタンスに背かず、また国際社会全体にとっても有益で、実現可能な解決策を盛り込んだ決議案が出来上がります。真摯に議論を行うことで困難な問題を解決するこのプロセスこそ、模擬国連の1つの醍醐味であるとも言うことができます。会議の終盤には成果文書案は採決にかけられ、各会議所定の賛成数をもって採択されます。採択された成果文書は国際社会の正式な意思決定として扱われ、非常に大きな意味を持つこととなります。
会議後の活動および会議を通じて得られるもの
会議が終了すると、担当国大使の立場ではなく個人としての立場に戻って会議の反省を行います。これは「レビュー」と呼ばれます。
レビューの形式は様々ですが、大使としての会議中の提案や行動の善し悪しを評価することで、担当国の立場から国際問題を捉えることの難しさや自分と違う視点を持つことの価値に気付くことができます。また個人としての立場に戻って国際問題を理解し直すことで、国際問題への理解をさらに深めることもできます。
このように、リサーチからレビューまでの流れを経験することで、はじめて1つの会議が完結します。自分で調べ、考え、実践するだけではなく、自分の行動を振り返ることによって、社会で必要となるような能力を身につけることができるのです。