模擬国連(Model United Nations)は、今から遡ること約90年、1923年にアメリカのハーバード大学にて開催された「模擬国際連盟(Model League of Nations)」にその原点があります。国際政治の仕組みを理解し、国際問題の解決策を考える過程を体験できることから、教育プログラムとしても高い評価を受け、現在では世界中の大学・高校において授業に採用されるほか、学生の課外活動としても楽しまれています。
このページでは、模擬国連の歴史や模擬国連会議の流れ、そして模擬国連が持つ価値(有用性)についてご紹介します。
模擬国連の歴史
世界における模擬国連
模擬国連は、いまから遡ること約90年、1923年にアメリカのハーバード大学にその原点があります。世界に国際連合が存在していなかった当時、この活動は「模擬国際連盟(Model League of Nations)」と呼ばれていました。
最初の模擬国連会議については正確な記録が残っておらず、場所(主催)、時期の双方において様々な議論がありますが、Berkeley Model United Nations(BMUN、カリフォルニア州立大学バークレー校にて開催)、Harvard Model United Nations(HMUN、ハーバード大学にて開催)、National Model United Nations(NMUN NY、ニューヨークにて開催)のいずれかであるとされ、1950年代の初頭には既に開催されていました。
それから半世紀以上の時を経て、現在、模擬国連活動は世界中に普及し、400ほどの模擬国連会議が開催されています。
模擬国連会議は高校や大学のクラブ活動によって主催されるほか、アメリカ国際連合協会のようなNPO団体も主催しています。
(参考:UNA-USA HP、best deligate HP)
日本における模擬国連
日本における最初の模擬国連団体は、1983年、当時上智大学の教授を務めていた緒方貞子氏(元国連難民高等弁務官)を中心に、前述のNMUN NYへの派遣を目的として組織されました。
1980年代、日本においては一部の学生や学者の間でしか知られていなかった模擬国連ですが、2014年現在では、その活動は全国に広まっています。関東、関西には、それぞれ東大や早慶、京大や阪大を中心とした計7つの研究会があるほか、北陸や九州などにも支部が存在し、全国で700人以上の学生が日々模擬国連活動に取り組んでいます。また、30年にわたる活動の結果、OBOGの人数は5000人に達し、外務省や国連機関、NGO、金融やITなど幅広い業界へ優秀な人材を輩出してきました。
近年は大学だけでなく、高校でも授業の一環で「模擬国連」が取り上げられるケースが増えており、実社会においても模擬国連の有用性が認識されつつあります。
模擬国連会議の流れ
模擬国連活動は、主に「①会議前の準備」、「②会議当日の行動」そして「③会議後の振り返り(レビュー)」という3ステップにわけて説明できます。
①模擬会議参加前の準備
- 自分の参加会議及び担当国を選ぶ
まず自分が参加したい会議を選びます。会議ごとに希望できる国があらかじめ設定されているので、その中から自分が担当したい国の希望リストを提出します。
提出された希望担当国リストに従って模擬会議運営メンバーにより担当国の割り振りが決定され参加者へ告知されます。 - 参加する会議及び議題を理解する
会議までの準備として、最初にするべき事は参加する会議及び議題についてきちんと理解することです。模擬会議ごとに作られる“Background Guide(通称BG)”という解説書を参考にして、「何が問題として話し合われているのか」「何がその問題の背景にあるのか」「その問題が今までどのようにして国際会議で話し合われてきたのか」といった議題に関する項目や、「参加する会議は国際社会の中でどのような位置付けなのか」「参加する会議はどの程度の権限を持っているのか」といった参加する会議に関する理解を深めます。
模擬会議に参加する上で、その会議における議論の中心となるべき「論点」を明確に想定しておくことは非常に重要です。 - 担当国を理解し、政策を立案する
また、模擬国連活動においては参加者それぞれが担当国の外交官として会議に臨むことが求められるため、担当国の調査・研究も重要となります。具体的には、「担当国の基本情報の収集」「基本データから『国益』を考える」「担当する国の過去の政策を分析する」といったことを通じて、担当国の会議におけるスタンス(立場)を固め、議題に対する政策を考えていきます。
②模擬会議当日の行動
会議当日は、事前に立案しておいた自国の政策をもとに演説(speech)や他国との交渉(negotiation)を繰り返し、会議の意思決定の下地となる決議案(Draft Resolution)を作成していきます。最終的には、担当国の国益を追求しつつも、国際社会にとっても有益かつ問題解決に実効的な解決策・対策を盛り込んだ決議案を投票にかけ、決議(Resolution)として採択します。
③模擬会議後のレビュー
模擬会議終了後に行なうのがレビューです。
模擬国連が「おままごと」ではない理由がこの作業にあるといっても過言ではないでしょう。
レビューは大きく分けて「会議行動」と「議題」という二つの側面から成立しています。
会議行動面では、「担当国の利益を追求するために適切な会議行動が出来ていたか」、「会議目標の設定は妥当であったか」などを参加者それぞれが振り返り、お互いにコメントをすることを通じて交渉力や問題解決能力、政策立案能力などの向上を図ります。
また議題面のレビューでは、模擬会議でのロールプレイングを通じて理解した担当国の利益とその元にある文脈(歴史的構造、パワーポリティクス、内政との関わり)を全体で共有し、議題に関してより多角的な分析を行います。
このように模擬会議のプロセスを通じて、参加者は議論する国際問題や担当国の政策についての理解を深めると共に、国際機構の機能や構造、そして国連の可能性と限界を実感することができます。また、多国間外交や現代の国際関係を体験的に学習することによって、現代の複雑な国際政治の仕組みを理解することができ、さらにそのような複雑な国際政治を通して問題の解決策・対策を探ることによって、これからの国際社会に必要とされる人材の育成にも大きく寄与することになります。
模擬国連の人材育成における有用性
模擬国連への準備、そして会議への参加を通した成長は、参加者にとって単なる会議の国際問題の理解に留まらず、社会に通用する能力開発の場になっています。日本においても、求められる人材像が変化しつつあります。そのような中で、様々な能力を総合的に鍛えられる模擬国連は人材育成の面からも非常に有効な活動です。
模擬国連の要素
模擬国連にて行われることは具体的に以下の4つに集約されます。
模擬国連での成長
続けて、模擬国連で得られる成長の要素は5つの柱に分かれます。
模擬国連で得られる能力
- 問題分析能力・論理的思考力
模擬国連にて行う、リサーチ、政策立案、交渉、レビューといった一連の流れの中では、論理的思考能力および問題分析能力を高める、絶好のチャンスです。自分に必要な情報を膨大な資料の中から的確に判断し、それを会議の議題に合わせて取捨選択して政策立案を行います。また、それをいかに相手に論理的に伝えて納得してもらうか、相手の反論に対して的確な再反論ができるかなど、様々な場面でこういった2つの能力が必要とされます。問題の本質を見極め、解決策を模索することで、問題への取り組み方を学ぶことができます。
- 多角的視点・戦略的思考力
模擬国連では、普段の自分の視点を離れ、一国の命運を担う大使としての視点を持ち会議に臨むことになります。そこでは、時として自分の思う意見とは異なる主張を、国の代表として行わなければならない場面に遭遇し、自分の信念と国家の責任の両者を、いかに折り合いをつけるかなどという様々な葛藤が生まれます。それと同時に、ある1つの国際問題をとっても、各々の国で全く違う視点や切り口を持っていることが理解でき、多角的な視野を養うことができます。会議を通して主観的でなく客観的に国際問題への理解を深めることができるといえるでしょう。
また、相手の立場を理解したうえでいかに自分の国益を達成するべく会議を進めていくかがポイントになります。どのタイミングでどういった発言をするか、どういう論理で自分の政策を説得力のあるものにするか、などの会議戦略を練ることが模擬国連の会議で必要になってくるので、戦略的思考力が身につきます。 - 協調性・相互理解
模擬国連はディベートとは異なり、勝敗をつけるものではありません。
一国の主張を押し通すのではなく、国際社会全体での合意を求められるため、いかに両者が向き合って真摯に交渉することができるかが会議での成功のカギとなります。自国と他国との違いを理解し、違いを尊重することが、双方が納得した形での問題の解決には必要なことです。 - Public Speaking・語学力
模擬国連会議の中で行われるスピーチや、全体の場での発言は、2~3分という限られた時間の中で自国の「いいたいこと」を明確に伝える技能が求められます。それに加えて、そこではただ主張をするだけではなくさまざまな工夫を用いて、相手に聞いてもらう努力をしなければなりません。そのため、Public Speaking能力やスピーチ技能を高めることが可能です。
また、そこでの発言や決議文書の執筆は英語で行われることが多く、語学力の向上も期待できます。