第7弾 世界銀行東京事務所 谷口和繁駐日特別代表インタビュー

目次


インタビュー前編: 世界銀行とは他

●世界銀行の活動について伺いたいと思います。世界銀行は「銀行」なのでしょうか?一般的に「銀行」と聞くと、あらゆる商業活動にとって身近な存在ですが、私たちが普段接している商業銀行と比べてどの点がユニークなのでしょうか。

世界銀行(以下、世銀)は、開発援助に携わる機関ですが、お金を貸しているという点で、「銀行」です。

開発援助に携わる上で様々な考え方があるかと思います。困っている途上国に返済を要求するというのか!という声もあるかもしれません。しかし私達がやっていることは、お金をあげ続けなくても自活できる国、人々をつくるお手伝いです。さらに、お金を貸す、ということは、返ってくることを意味します。つまり、寄付のような資金を集め続ける必要もなく、また、そのお金をもう一度使えるという利点があるのです。

一方、民間銀行と違うことは、まず借り手が国であること。そして目的が開発援助にあること。ですから、絶対に儲かるというプロジェクトでも、それがその国家の開発のために役にたたない場合は、融資しません。

また、資金調達に関してですが、普通の銀行は人から預金を預かって、お金を貸しています。貸し倒れが起きてしまっては預金者に迷惑を掛けてしまいますから、責任をもって融資先を決定します。世銀は、預金を受けていませんが、加盟国からの拠出、および世銀債などの形で多くの方々からお金を預かっている責任があります。その責任が、健全性を担保しているのです。

●目的が開発援助であり、「儲かる」だけのプロジェクトには融資をしない、となると、民間銀行が踏み出しにくいような危ういプロジェクトに融資をする、ということにはならないでしょうか?

確かに、先進国には貸しません。但し、ぜんぜんだめな国にも貸しません。たとえば、戦争をやっている国、独裁者がいるような国、こういう国では、いくらその領土から石油がでようとも融資をすることはできません。

一方、財務の健全性が先進国レベルでなくても、努力している国、状況が改善に向かっている国には貸します。開発に重要なインパクトのある貸付として、例えば日本の復興期、東京オリンピックに際して世銀は新幹線プロジェクトに融資を行ないました。当時新幹線は先進国にもないような画期的輸送手段であり、また巨体なプロジェクトでしたので、日本の民間銀行や開発銀行だけではプロジェクトが成り立ちませんでした。そこで、経験ある世銀が融資を決定することによって、プロジェクトとして成立し、その後の日本の高度成長を支えることとなりました。

ところで、世銀の融資残高は実は10兆円程度なんです。一方日本のメガバンクでは80兆円。このように、世銀が世界中のプロジェクトを自分だけで請け負うことはできません。しかし、世銀が融資を決定することで、他の開発機関や民間銀行がついてくることが期待されます。これを私達は「触媒効果」と呼んでいます。

●世銀が融資をするということは非常に大きな意味を持っているんですね。すると、融資以外の仕事もかなり重要になってくるのでしょうか。

政策アドバイスも重要な役割を担っています。途上国にも「あれをやりたい、これを建設したい」という希望があるわけですが、世銀も専門的な調査をもって「こういうセクターのこういうプロジェクトに融資をすればあなたの国にこれだけの発展がありますよ」というアドバイスをします。

そのために、たとえばダム建設といっても電力の専門家、河川工事の専門家、マクロ経済の専門家、森林の専門家など多くの専門家があつまっています。これらを結合して、国ごとに経済状況の分析、セクターの分析といったものを積み重ね、問題点や優先分野を示しています。これを国別援助戦略(Country Assistance Strategy、CAS)と呼んでいます。この戦略は公開されています。

もうひとつ重要なのは、政策協調です。逆説的にいえば、「援助のお金って本当にたりないのか?」という点です。もちろん足りないのですれけども、もしかしたら絶対的に額がたりないのではなく、配分の仕方や効率が悪いのではないでしょうか。

開発援助を行なっている団体は世銀だけではありません。途上国一カ国当たり30、40の様々な団体が特定の分野にのみ援助を行なっています。そうすると、一つ一つの支援が悪い訳ではなくても、全体として見るとその国の開発計画の効率が悪かったり歪んだりするおそれがあります。これらの調整を支援する役割を、世銀は担っています。

●最近はOECDに入っていない新興国でも、援助に力を入れてきている国があるようです。先進国と新興国には援助スタンスの違いがあるようですが、世銀の活動は常に先進国の側にたっているのでしょうか?

よい質問ですね。2つの観点が重要だと思います。まず世銀のプロジェクトに対する信頼を担保する方法です。これはやはりプロジェクトの選び方です。これは議決方法に現れています。国連の場合は、一国一票で信頼を保っています。一方世銀は、金融機関としてマーケットからの信頼を保つことが大切です。従って、借りる立場の人からの信頼のみではなく、貸す立場の人からの信頼が半分以上ないと、信頼のメカニズムの根本を失うわけです。ですから、やはり先進国の票は5割以上を維持しなくてはならないと思います。ここがいわゆるブレトンウッズ体制の特徴でしょう。

一方で、まじめに借りている人の声も聞かなくてはならないというポリシーもあります。これが世銀の活動のlegitimacy(正統性)を高めると私達は考えています。理事会では、投票権はいわゆる先進国のほうが多いですが、理事の配分や職員採用でも配慮が行われており、途上国の意見をプロジェクト策定に積極的にとりこんでいます。

もう一つの視点ですが、事実、新興国ドナーと世銀の立場の違いが生じることもあります。世銀は、ひどい独裁国家ならば、融資をすることはできません。もちろん、そこに大規模な人道的危機がおこればそれは金融の問題ではなく政治の問題でしょうから、国連が動くでしょう。

他方で、その途上国の大統領がまともで、国民と国の将来を考えている場合は、新興国ドナーが無条件でくれるようなイージーマネーには手をださず、不思議と世銀に支援を求めてやってくるのです。

かつて新興国の中にはひとつである中国は、途上国に一見無条件で大規模な支援を行ない、結果的に長期的な開発効果を阻害しかねないという問題を指摘されることもありましたが、しかし最近、そのような新興国も世銀と組むことに積極的です。世銀と組むことが援助効果を高め、国際社会での立場を高めると、新興ドナー国や受け手が認識してきているということです。


インタビュー後編:谷口代表のキャリア/学生へのアドバイス

●谷口代表が、財務省に入省されてから世銀駐日代表に就任されるまでの経緯をお聞かせください。また、世銀に入られて一番驚かれたことは何ですか。

私が役所に入ったのは30年以上前なのですが、大きく分けると国際金融関係の仕事、そして国際課税の仕事、そして組織管理の仕事をやっていました。国際金融関係の部署では当時の国際金融局というところにいました。またIMFに4年出向もしたのですが、ちょうど90年代前半だったので、旧ソ連圏が市場経済に入ってくるところで、とてもダイナミックでした。

また、国際課税の部署で興味深かったのは、グローバル化と課税の関係です。経済のグローバル化によって税の優遇措置がさかんな国に本社を移す大企業が増えてきました。すると、可動性の高い所得に対する国内の税率を高く維持する政策は制度的に一見公平でも、所得そのものが国外に出てしまうため、機能しなくなります。残念ながらこの流れをとめることはできませんので、各国とも消費税に頼りがちになる。実際、いわゆる高福祉の北欧だけでなく、中南米などでも消費税が15%から20%以上の国が多くあるんです。

さて、世銀に入って、私が一番感心したのは、世銀にはあらゆる分野の、様々なプロがいることです。そして、彼らがあらゆる国に目配りをしている。こういう組織はなかなかないと思います。とりわけ、「融資である」という点で経済開発効果について大きな責任を持っている世銀では、目の配り方がより鋭いと思います。

●日本には将来国際機関への就職を考える若者がたくさんいると思います。そうした若者に、何かアドバイスを頂けますか?世銀で働くにはどのような能力や心構えが必要でしょうか?

世銀で働くと、仕事は英語で行なわれます。ただ、英語で仕事がしたい、というのは少し違うかなと思います。プロフェッショナルとしての何かを持っていたほうがよい。また、他の分野のプロと付き合えなければいけません。その国の開発のため、世界のためにお互い様々な視点から議論をしていくのですが、そういうことができて、その仕事に喜びを感じられる人が必要です。

そのための準備としては、まず英語の勉強は、日本でも可能ですが、アメリカの大学院で通用するくらいの力は欲しいと思います。英語に限らず、アメリカの大学院で経験をつんだ、ということはとてもよい経験になると思います。

また、いったん会社に入った後でも、そこで満足しないで、いつでもチャレンジすること。そして、専門性についてですが、セクターごとの専門性も重要ですが、その国の経済全体、社会制度や開発状況に全体をみられるような能力が必要だと思います。ですから、大学に入ったばかりの方や高校生の方でしたら、まずは英語を一生懸命勉強して、その上で、経済学や法律といったその国の運営に必要な学問をやってみることが有益だと思います。そして、できるだけ若いうちに、ぜひ途上国に足を運んでみてください。(了)


GMUN日本代表派遣プログラムは、外務省「いっしょに国連キャンペーン」の協力団体として、メールマガジンのインタビュー作成を担当しています。メールマガジンのバックナンバーはこちらからご覧頂けます。

最終更新:2010年3月7日

 

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