第3弾 国連人口基金(UNFPA)東京事務所 池上清子所長インタビュー
この度のインタビューを担当した、GMUN日本代表派遣プログラム代表の高橋(上智大 4年)です。
池上所長のお話を通して、資金に関する説明、国際会議でのエピソードを通じてUNFPAが国際政治の波の中で活動をされているということがとてもよくわかりました。しかしながら、私と「お母さん」の関係というのは、国際社会の流れにも時代にも左右されず、普遍的に守りたい、ともに幸せでありたいと強く願うものであると思います。
「お母さんの命を守るキャンペーン」、ひとりの娘として、また未来の母親としてぜひ参加していきたいと思います。ありがとうございました。
目次
●国連人口基金( UNFPA;United Nations Population Fund)はどんな活動をしてい
る機関なのでしょうか?
その質問に答えるためには、まず国連が機能的にどういう目的をもっているかということについてお話しましょう。私は、大きく分けて3つの機能があると思っています。(1)平和の構築、(2)開発の推進および貧困の削減、(3)人権の保障です。そのなかでUNFPAの活動が関連しているのは、主に(2)、そして(1)と(3)の一部です。(1)としては、自然災害が起こった場合の人道支援や、戦争や紛争の避難民への緊急支援を行っています。(3)については、女性の権利やカップルの選択権を保障する活動があります。
主要な活動領域である(2)の部分としては、開発援助プログラムの実施があります。具体的には UNFPAには3つの活動の柱があります。1つ目は「人口と開発」。世界の人口や各国の人口を把握する国勢調査などを技術的に支援します。国勢調査は10年ごとに行ない、ある地域に5歳児が何人いるか、だから学校がいくつ必要か、というように人口データを政策につなげていきます。2つ目は、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」です。これは基本的には、次の世代に関わる大切な支援です。日本語では「性と生殖に関する健康・権利」と呼びます。子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかということを、1人ひとり、もしくはカップルが「決める」権利を保障すると言ったらよいでしょうか。3つ目が「ジェンダー(gender)の平等の推進」です。以上の3つに対してUNFPA は、予算内訳の大よその割合として、約20%を国勢調査に、約70%をリプロダクティブ・ヘルス/ライツに、そして約10%をジェンダーに割り当てると決めています。
●途上国の女性に焦点を当てたお仕事であるという印象を受けます。
日本は妊産婦死亡率が高いという話を聞きませんが、そのような日本にある UNFPA東京事務所では、日本政府とどのようなお仕事をなさっているのでしょうか?
おっしゃるとおり、UNFPAの活動は主に開発途上国で行われています。ですから、事務所が日本にあるのは「どうして?」と思われるかもしれません。日本の乳幼児死亡率は世界で最も低い国の一つですが、「お母さんの健康」は、決して先進国の中で最高レベルとは言えません。例えば、奈良県で妊婦が2名続けて亡くなり、報道ではその原因として病院のたらい回しに焦点を当てていました。しかし、背景には―もちろんお母さんに鞭打つわけではないのですが―このお母さんは妊婦健診に行くとお金がかかると思い、健診を受けたことがなかったという事情があったのです。こういう健診データのない妊婦さんが救急車で運ばれて来た場合、お医者さんが責任を持って診ることができるかというと、なかなか難しいのが現状です。しかし日本の妊婦健診は、自治体にもよりますが、数回分は無料でしたし、今年(2009年)の4月からは14回まで無料になりました。このような権利を、日本のように教育レベルが高い国でも知らない人がいる。これは情報の貧困です。わたしは妊婦健診が無料だといった情報を日本の若い人にも知って
もらいたいと思います。一方、日本と途上国では、医療の置かれている状況も問題の質も違います。しかし、知らない人がいる、という共通点があります。日本の女性も途上国の女性も、皆自分の体を守りたいし、子どもを死なせたくないと思う。そこを支援していきたいと思います。
日本は、UNFPAに対する主要な資金拠出国の一つです。また、スマトラ沖大地震による津波の際、国連から出された緊急アピールに応えて日本政府から拠出された550万ドルで、インドネシア、スリランカ、モルディブの人々に衛生キットを配布することもできました。
●中には女性がかぶるケープのようなものまで入っていますね。とても細やかな心配りですね。
そうですね。このような国際協力を行う際には、やはり現地の人が考えていることを理解しなくてはいけません。私達は開発を進めたいという意志を持っています。しかし、それだけでは自己満足になってしまう。相手が必要なものを現地の人と一緒に考えていくという姿勢が、国連職員には求められていると思います。アチェ州の事例では、私達は現地NGOの「フラワーアチェ」と協働して、他の機関が提供している水や食糧との重複を避けて、ケープとか、お祈り用のマットを調達することにしました。というのは、かれらはイスラム教徒ですから、すぐそこまで水や食糧などの支援物資が来ていても、頭髪を覆うものがないと女性は外出できず、支援物資を取りに行けないのです。しかしこのような事情は外部者には、なかなか分かりません。そこで、フラワーアチェの方々と一緒に、32万個の支援品を決め、現地調達したのです。このように、現地の住民組織と協働して取り組んでいくことが大事です。
インタビュー後編:UNFPAの仕事において開拓の余地/日本の若者に対するアドバイス他
●池上所長が UNFPAのお仕事で開拓の余地があると思われるところはどこですか?
ユニセフやユネスコの活動は、皆さんご存知かと思いますが、それ以外の国連機関についてはほとんど知られていません。国連のイメージは、日本では決して悪くないと思うのですが、何をしているかということは意外によく知られていません。ですから私は多くのみなさんに UNFPAの仕事を知ってもらいたいと思っています。
「人口基金」という名前からイメージする姿からは、実際の活動の7割は“お母さんと子どもの健康を守る”という仕事だという事実となかなか結びつかないので、より多くの方に、実際の活動を知ってもらいたいと思います。そのために、メディア・議員の方々だけでなく、シンポジウム、講演会や学会などを通して市民社会の方々にも知っていただけるように努力しているのです。
特に、現在東京事務所で実施している「お母さんの命を守るキャンペーン」を通じて、より多くの方々に広く UNFPAの活動を理解していただきたいと思っています。このキャンペーンには、皆さんもサポーターになるという形で参加できます。登録は無料ですし、義務などはありません。 UNFPAのホームページ から、簡単にサポーター登録をすることができますので、ぜひ若い方にもサポーターになっていただき応援してほしいと思っています。
●国際協力に興味のある若者に対して、心構えなどについてアドバイスをいただけないでしょうか。
まずは、多様性を認めることだと思います。国連機関の職員には、様々な国籍、人種の人がいます。多様な人々が集まってできているチームで仕事をするわけですから、違いを認め合わなくてはなりません。もしそれができれば、誰とでもチームが組めます。
ここでもうひとつ重要になってくるのが、比較優位性(Comparative advantage)、つまり他者より優れている長所を探し、それを出し合えるチームをつくることです。一人で仕事をするには限度があります。国連の機関の間でも「One UN(ひとつの国連)」としてお互いの長所を出し合えるシステムを作ることに取り組んでいます。このチームワーク
があれば、効率よく成果が出せ、最終的には、効果的な開発を進められると思います。ですから、チームの中で他者より優れた長所を引き出し合う、別の言い方をすれば、チームの中でwin-winの関係を作れることが大切です。
この方法で重要になるのはコーディネーション能力だと思います。多様性を持った人達と、ひとつの目的のもとでチームワークを行う力、それは相手のいいところをみつけることができる能力です。その際に大事なのはやはり誠意です。そして技術的にはコミュニケーション能力が必要です。
最後にもうひとつ心構えとして加えたいのは、いつも全部上手くいくとは限りません。そのような時は、一旦置いておくことにしています。すると客観的にみることができますし、状況そのものが変わることもあります。いつも「できます」といって気を張ると、自分自身にプレッシャーをかけてしまったり、相手のよさが見えなくなってしまったりすると思います。相手が政府であれ、村のお母さんであれ、いつも相手と一緒に行動するということを忘れないことが大切です。
●最近のニュースでUNFPAの活動に大きく影響を与えるようなものがあれば教えてください。
アメリカのブッシュ政権下では、UNFPAの活動に賛同が得られず、アメリカからは1セントも拠出がありませんでした。しかし、オバマ政権に変わってから5000万ドルの拠出が約束されました。ブッシュは3400万ドルを拠出していたのを8年間にわたって停止していた訳ですから、これは増額になります。このように、大金を拠出したりしなかったりする国がいるということは、大きな問題です。UNFPAは、アメリカが戻ってきてくれたことをとても歓迎しているのですが、昨年の経済危機でそれ以外の歳入が減り、結果的に財政状況に大きな変化はありませんでした。ですから、UNFPAのように国連分担金を受け取っていない他の団体も、今回の経済危機では困難な状況にいると思います。こういったグローバルな問題は国連に直接影響を与えますし、それはプログラムに直接影響を与えています。
●実際、変化があったのは拠出金の額だけではなく、UNFPAの活動に対する価値観にも影響を与えたのではないでしょうか。
そうですね、やはりアメリカは大国です。良い悪いという評価は別にして、アメリカの国内政治が国際社会にも大きな影響を与えます。実際、今回の政権交代によって、UNFPAの活動に対する一種のプレッシャーのようなものが取り払われたように思います。
4月に行われた経済社会理事会の下の人口開発委員会(CPD)でのエピソードをお話しましょう。人口・開発分野の大切なキーワードとして、「Reproductive Health and Rights」というコンセプトがあります。しかし、今回のCPDで採択された決議文書の中に、「Sexual and Reproductive Health / Reproductive Rights」という表現が使われることになりました。日本語では「性と生殖に関する健康・権利」というように、既に「性」という単語が入っているのですが、英語版の「sexual」は、1994年のカイロ会議で非常に議論の的となった単語でした。カイロ会議では、最終合意文書として採択される前に、「sexual」 という単語を括弧つきにすべしという要求がありました。記載に反対したのは、中南米諸国、そして中東諸国でした。それは、人工妊娠中絶等に関する権利を含むことを懸念した。カトリック圏、イスラム圏の国家が、このような記述を認めるわけにはいかないと納得しなかったのです。そういう経緯があり、最終文書からは「sexual」が取り除かれて、「Reproductive Health and Rights」となったのです。
そのICPDから15年目にあたる今年のCPDでは、少なくともHealthに関しては「sexual」の記載が認められ、「Sexual and Reproductive Health / Reproductive Rights」となりました。「Sexual Rights」は認められなかったものの、「Sexual Health」は含まれることが正式に合意されたという事実は、「性と生殖に関する健康」の推進に向けた大きな前進と言えますね。
●池上様のような世界で活躍できる人材になるために、大学生の生活では、どういうことに取り組んでいったよいでしょう?
途上国に行ってみるといいと思います。現地で実際に開発をすすめて貧困を撲滅していくことの必要性を知ることが、結果的に世界全体の平和を作っていくことにつながると思います。ですから、なるべく首都ではなく地方を見ることをお勧めします。
そして、その国に行く前に大まかな情報を知っておくと良いと思います。各国のMDGs(ミレニアム開発目標)の進行レポートを見てから行くなど、自分なりの問題設定を持ってから行ってください。そこで現地の人の話を聞いてみて、そこのギャップを探してみてください。そういう、双方向からのアプローチで現実を理解していくことが、重要だと思います。(了)
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最終更新:2010年2月6日
