第6弾 国連環境計画国際環境技術センター(UNEP/IETC)中村武洋所長インタビュー
目次
インタビュー前編:UNEPとは/IETCとは/日本との協力関係
●国連環境計画(UNEP)の活動について伺いたいと思います。UNEPはどのような経緯で設立されたのでしょうか?なぜ、環境問題を取り扱う国連機関が必要とされたのでしょうか?
1972年にストックホルムで国連人間環境会議が開催され「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」が採択されました。この宣言及び行動計画を実施するために環境問題を統合的に取り扱う国連の一機関として同年の国連総会決議[決議2997(XXVII)]に基づき国際連合環境環境計画(United Nations Environment Programme = UNEP)が設立されました。
その設立にあって特筆すべきユニークな点は本部が途上国にあることにつきます。1972年の会議で、環境問題の影響が一番顕著に表れるのは途上国であり、そのため本部を途上国に設置する意見が議題に上りました。結果としてその要請は受け入れられ、国連機関における初めての試みとしてUNEPの本部はケニアのナイロビにおかれました。
現在に至るまでUNEPは地球規模の環境問題のみならず、特に途上国の環境問題について様々な活動を実施し、同時に国連諸機関の環境問題に関する調整役も務めています。
●UNEPは実際にはどのような活動をしているのでしょうか?また、UNEPが活動の対象とする環境問題はたくさんあると思いますが、その中でも特に重要になってきている問題は何でしょうか?
UNEPは環境分野における国連活動と国際協力活動を行います。問題の対象が地球規模で、国連にしかできない数々の活動を実施し、複雑な環境問題を扱うことのできる機関として認識されています。また、国家間の紛争や環境問題、越境問題を扱う際に非常に有効に機能している一方で、地域間の環境問題をも取り扱います。
UNEPは対象地域でまず試験的な事業活動を実施し(パイロットプロジェクト)、それを基に地域の関係者が自らの問題に対処するための環境に関する枠組みや基準を設け、環境問題の能力開発(キャパシティ・ビルディング)を行ない、また法制整備や当該国家や地域の状況評価も行います。世界に対して地球規模の問題が現在どのようになっているのかをいろいろな方法で情報発信し必要な問題も提起します。
現在UNEPの中期計画(2010-2013)における重点課題は①気候変動、②災害と紛争が環境に与える影響、③有害物質と危険廃棄物、④環境ガバナンス、⑤生態系の管理、⑥資源の効率的利用―持続可能な生産と消費の6つの項目で、これらの案件を中心に今後4年間の活動が実施されます。
これらの取り組みの中でも最重要課題は、気候変動に関する問題です。問題が及ぼす様々な影響が多岐に渡るためその社会的インパクトは甚だ大きく、UNEP内部でもその取るべきアプローチを環境という分野だけに限定せず経済的な観点も含め統合的に、そしてより柔軟に環境と開発を結びつけた方向へ問題を定義していこうとしています。
さらにもう一つ重要な課題は資源の効率的利用の問題です。資源をめぐる争いは様々な場所で年々激しくなっており、地球にとって貴重な資源である水やエネルギーの効率的な利用は、経済の成長にとっても、また環境への負荷を最小限におさえつつ人間の生産活動を活発にする上でも重要です。
●UNEP/IETCは、その中でどのような活動をしているのでしょうか?
IETCはUNEPの6つの重要課題の中で特に3分野をカバーしています。すなわち①廃棄物管理と処理、②水と衛生、③防災に力点を置いています。センターのある日本を基点に開発途上国に対し環境に適した技術の移転やその情報を提供し、対象とする国や地域の持続可能な開発を支援します。
また、環境技術の評価という部分では、一つ一つの技術の特性を見極めた上で評価し、地域レベルでの適用を行っています。そこで上手に活用された技術を他の国や地域にも適用できるようにさらなる情報を発信してその情報の共有を促し、またその活動が国家レベルや地域レベルの政策立案とその実施に繋げていけるような技術移転の方法を考案しています。
●UNEP/IETCと日本政府はどのような協力関係にあるのでしょうか?
日本政府は1991年のUNEP管理理事会において環境技術を促進するための国連のセンターを日本に誘致しました。この要請は正式に決議され(決議16の34)UNEP国際環境技術センター(IETC)の活動が1994年に始まりました。日本政府には財政面のサポートのみならずUNEPとUNEP/IETCの活動を日本国民に知っていただけるような様々な支援を実施していただいています。
一方で、日本が海外に向けて環境問題のアプローチをする際にUNEPは国連のネットワークを活用して協力をするなど、IETCを通してUNEPから事業推進のためのサポートを実施しています。
なお、ここで少し日本政府とUNEPの直接的な協力関係とは離れますが、昨今官民共同のパートナーシップ(PPP)が日本で重要視されている点に注目したいと思います。日本政府がそのPPPを推進する中で、UNEPもそのパートナーの一員として参加し、民間企業と協力関係を保ちつつ国連の使命を果たす事も可能です。
これは、UNEP/IETCが環境技術を扱うセンターであり、その環境技術の移転に対して企業が果たす役割が非常に大きい点が挙げられます。国連の機関としては特定の企業の特定の技術を推薦することはできませんが、PPPという枠組みの中でできる途上国への環境技術の普及など、UNEP/IETCの活動を推進するという面から考えても重要な協力関係であると言えます。
インタビュー後編: 中村所長のキャリア/IETC所長という仕事/学生へのアドバイス
●中村所長は大学時代、地球環境学や土木工学を専行されたとの事ですが、UNEPに入ろうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
日本の大学での専攻は土木工学(学士号)、そして水理学(修士号)です。一貫して水問題に興味があり、卒業後大阪府に就職し、技師として寝屋川水系の改修事業に約2年間従事しました。その後米国の大学院で土木工学を、その中でも特に水文学を学び、修士号を取得後国連環境計画(UNEP)で働きはじめて17年になります。また、2007年に地球環境学博士号(生態系に基づいた流域管理)を授与されました。
今年7月に大阪と滋賀に事務所をもつUNEP国際環境技術センター(UNEP/IETC)の所長に就任するまでケニヤのナイロビにあるUNEP本部で様々な活動を通して水問題に取り組んできました。特に国際水域の管理問題に重点を置いてきました。
UNEPに入ろうと思った動機は、大阪という地域の水問題に取り組んだ自らの経歴と米国の大学院で学んだ事を活かせる場をUNEPという国連機関に求めた、という事だったと思います。なぜなら水問題は地域や国のレベルにとどまらず、地球規模で考えなければならない大きな課題であるという点がまず挙げられます。
近年水を取り巻く活動や事業が世界全体の環境問題の中で占める割合は非常に大きくなっていて、そんな中で国連が果たす役割は、例えば加盟国が話し合いによる地球規模での意思決定をする場を用意し、その決定を可能にします。それと同時にその地球規模の決定を受けて地域の水問題の解決に繋がるような流れをつくりだすことも可能にして行く。それ故UNEPのような国連機関が水問題解決に果たす役割は大きいのです。
過去から現在に至る自分の経歴を振り返ると、まず地域で得た自分の知識や経験を活かしUNEPで地球規模の水問題に取り組んできたこと。そしてUNEPで17年間培ってきた自分の知識と経験を重ねて、今後数年間UNEP/IETCから世界のあらゆる地域の水問題に関する活動や事業に関わって行きたいと思っています。
●IETC所長というのはどういったお仕事をなさっているのでしょう?また、所長というお仕事のどういった点にやりがいを感じられますか?
IETCの所長として、すべてのスタッフの仕事に関わります。それは統括的な事業の実施とその管理に従事することを意味していて、なおかつ事業の評価やモニタリングも必要となります。さらに専門の企画官たちと実際にセンターの事業を展開するのみならず、IETCの今後の戦略や方向性などの見極めも大切な仕事のひとつだと考えています。
その上、まだ本年7月に現職に就いたばかりなので、今のところIETCというセンターそのものを理解するために積極的に財務や人事も含めた総務の管理・運営にも携わっていて、それも日々の仕事のかなり大きな部分を占めています。その一方でIETCの対外事業の一環として、センターの広報活動を積極的に推進したいと思っています。UNEP/IETCは事務所が大阪と滋賀の2ヵ所にあるものの、日本の首都東京からは遠いため、全国規模での広報活動を展開するには難しい面があります。またセンターには広報を担当する専門官がいないので、私が中心的な役割を担い、積極的に外に出て色々な分野の方々にセンターの様々な活動を幅広く発信していくことも重要な仕事と考えています。
やりがいという点に関して言えば、今まで私は環境の問題について大変多くの案件を扱ってきました。その取り組みの中で自分なりの考え方や自分の方法を構築し、与えられた仕事に期待された成果を出してきました。そして今実際にIETC所長としてセンターの事業を実施する際に、これまで以上に試行錯誤を繰り返しながらもその事業を成功に導きたいと考えています。それができれば、その成功によって自分の考えに実践的な効果があったと自認します。それは、自分の考えに基づいたやり方が成功し、その効果が実際に具現化されるという点に関してもっともやりがいを感じるということです。
●日本には将来国際機関への就職を考える若者がたくさんいます。そうした若者に、何かアドバイスを頂けますか?国際機関で働くにはどのような能力や心構えが必要でしょうか?
今若い人の間で、将来国連で仕事をしたいという方が増えているようです。その方々にまず尋ねたいことは、「何故国連なのか?どうして、国連で働きたいのか?」ということです。国連には国連にしかできない仕事があるのは確かですが、国連以外の機関にしかできないことがあることも事実です。従って、自分が何かをするための目標や、自分がやりたいことを実現するための目的を明確にする必要があると思います。
そのために自分の専門分野を活かして国連で何をしたいかを自分ではっきりと見極めることが何よりも大事だと思います。そうでなければ国連に入った後に自分や仕事に失望することになると思います。
UNEPの事業内容においては、環境の分野のみならず経済や法律など様々な分野の知識が現在の環境問題を解決する上で関わってきています。そうした中で、自分がどういう形で何に対してどう貢献したいのか、またできるのかを見極めることが非常に大切だと思います。
また、UNEPの仕事の大部分は開発途上国を対象としています。途上国を相手にした仕事が自分にできるかどうかを見極めることも大事だと思います。日本は先進国の一つに位置づけされていて、日本の若者は途上国における環境の現状をよく知らない方々も多いと思います。
特に環境問題において言えることは、具体的な内容を知らないまま行動しようとせず、実際に途上国に足を運びその途上国の現状をしっかりと知ることが重要な一歩だと思います。そのためにも、旅行ででもいいので若い時に開発途上国に足を運んでその現状を見て来ていただきたいと思います。(了)
GMUN日本代表派遣プログラムは、外務省「いっしょに国連キャンペーン」の協力団体として、メールマガジンのインタビュー作成を担当しています。メールマガジンのバックナンバーはこちらからご覧頂けます。
最終更新:2010年3月7日
