第16弾 国際連合地域開発センター(UNCRD) 小野川和延所長インタビュー
日本模擬国連の山下麻里奈(東京外国語大学2年)が、今回は、国際連合地域開発センター(United Nations Centre for Regional Development, 以下UNCRD)の小野川和延所長にインタビューお話をに伺いました。
1.はじめに、UNCRDの設立背景を教えて下さい。
‐UNCRDは1971年に名古屋に設立された国連機関です。設立されるまでの60年代というのは、戦争から世界が復興していった時代であり、その復興の過程で出てきたのが「公害問題」と「地域間経済格差」という二つの問題です。「公害問題」は、日本でも水俣病などで問題となりましたし、大きな意味での環境問題です。もう一つの「地域間格差」は一国内で富裕層と貧困層の差が大きくなっていったという問題です。環境問題に配慮しながら、また地域間格差を是正するという地域に根差した開発を行う必要があるという世界の流れの中でUNCRDは設立されることとなりました。
2.UNCRDの活動目的である研修、調査研究等、助言、情報ネットワークとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
‐研修の必要性を考えるために、東南アジアの国々を例に挙げます。これらの国は以前に比べて経済発展を遂げてきました。しかし、社会一般を見た時には更なる補強が必要な分野が多々あります。前述の地域格差是正など、国全体としての社会発展を行っていかなければならないのです。そう言った点で、「人」の能力開発などの面で研修が必要となります。調査研究では、地域開発を巡る諸問題をテーマに、このような研修の教材開発も兼ねた研究を行っています。これまでは学術的な分野で研究者による調査研究が盛んに行われてきましたが、ここで培われた調査研究結果を国家間で共有することが重要となってきたのです。これが助言と情報ネットワークの確立につながります。UNCRDは「いかにして開発を行っていくのか」という具体的戦略やアドバイス、国家戦略作りのサポートといった各国政府への助言することで目に見える支援を行っています。また、各国で行われた戦略の経験をも共有する場として、情報ネットワークづくりを重視してきました。
3.UNCRDでは、「持続可能な地域開発」、また「人間の安全保障」「環境」「防災」をその主要テーマとしているということですが、これらがUNCRDに対してもつ意義とはどのようなものでしょうか。
‐先ほど述べたように、60年代というのは環境問題と、地域間格差という問題が顕著になった時代でした。環境に配慮しつつ、開発を行う側の人々に焦点を当てながら「持続可能」な開発を行うこと、これが「開発」を語る上で重要になったのです。開発途上国の社会問題を考える際、「貧困問題」は主要な課題の一つです。また貧困問題は絶対的貧困という、例えば一日1ドル以下での生活など経済的な貧困でもたらされるものと、相対的貧困という格差によりもたらされるものの二つにわけられます。例えばラテンアメリカでは、経済政策の失敗により国内で地域間格差が広がり、貧困問題に発展しました。そして、貧困を原因として麻薬や誘拐などが横行し、他の社会問題へと発展していったのです。この相対的貧困に対応する際に「人間の安全保障」という概念が関わってきます。UNCRDでは人間の安全保障を「コミュニティの持続可能な開発を妨げる経済的、環境的、社会的、文化的な脅威に対する脆弱性を取り除く、または減らすこと」を定義しています。これを達成するために、この概念を開発途上国の開発政策や地域開発計画に組み込んでいくことを活動の柱としています。
「環境」に関してですが、公害問題や地球温暖化を通して、開発を進める上で周りの環境に配慮する、という視点が求められるようになってきました。その点で「環境」もUNCRDの主要なテーマとなっています。UNCRDは国際的に合意された様々な目標に呼応してプログラムを実施しています。
「防災」に関しては、安定した社会をつくる上で防災は重要な要素とUNCRDでは考えています。災害に対処する能力というのは、地球温暖化や気候変動による大規模なハリケーンや干ばつへの対応という面でも不可欠なものとなっています。開発途上国では、災害の被害を防ぐ能力が不足しています。そのため校舎の崩壊などで子供たちが被害を受けることが多々あるのです。こうった被害は社会の安定した発展を妨げる要因となります。したがって「防災は」「環境」というテーマとリンクしながら、活動の重要な要素となっています。
4.UNCRDは名古屋本部と3つの事務所を持っていますが、それぞれどのような活動を行っているのでしょうか。また、具体的な活動内容を教えてください。
‐名古屋の本部は環境、神戸事務所は防災、ラテンアメリカ事務所は人間の安全保障に基づいた開発と格差問題、そしてアフリカ事務所は経済に重点を置いています。UNCRD全体としては、2002年から特に都市における交通問題と、廃棄物問題に力を入れてきました。交通問題では渋滞、排気ガス、騒音、また健康被害が大きな問題ですし、廃棄物も経済発展の結果生まれるものです。そしてUNCRDがもつアプローチ方法は次の二つです。一つは、個別の国家への対応。これは開発途上国自らが作成する国家戦略などについて調査結果の提供や助言を行うことでプロジェクトとして実施する方法です。ここで必要になるのが、ボトム・アップ形式をとることです。被援助国の政府、研究者、市民社会が戦略作りに関わることで、参加者全員に「自分達の作った計画」という意識を持ってもらうのです。また、この製作過程にドナーも巻き込むことで実施可能性が高まります。
もう一つの方法が、ネットワーク内での情報共有です。交通問題に関していえばEST、Environmentally Sustainable Transportという地域フォーラムをUNCRDは動かしています。これはアジアで2004年以来毎年行ってきたもので、各国のこれまでの経験や知識の情報交換を行う場所として機能しています。ドナーもこの会議に参加することで議論された概念の実現可能性を高め、開発計画の推進という役割を果たしています。
5.UNCRDは「開発途上国の地域開発に関する双方的機能を持った独自の機関」と称していますが、その活動の中で他の国際機関とはどのようにかかわっているのでしょうか。
‐先に述べた地域フォーラムには、世界銀行や世界保健機関など多くの国際機関が参加しています。UNCRDでは、このような活動の際に国連機関に限らず、他の国際機関を多く招いています。それぞれの国際機関が、その独自の視点からUNCRDの活動に関わってくれることで資金面のカバーや、多方面の視点の入った活動を可能にしています。
6.今年は日本でも開催された生物多様性に関する第10回締約国会合などが行われましたが、こういった国際会議にあたりUNCRDは何か活動を行っているのでしょうか。
‐まず、UNCRDが活動する際にはそのマンデートに沿ったものでなければなりません。「生物多様性」が「地域開発」とどのように関連するのか、から議論はスタートします。UNCRDが提供する視点の一つが「里山」です。里山は、豊かな自然と人間が共生する場であり、人間は自然の恩恵を受け、また自然は人間に利用されることで生態系を維持しています。里山での開発の例としては里山でとれたコーヒー豆や茶葉を、フェア・トレードなどを通じて販売することで地域の開発と、自然の保護を両立する、というものがあります。これらの仕事に女性が従事することで現金収入を得、女性の地位向上にも貢献することが出来るのです。こうした里山での開発を通し、生物多様性を保護する。このような考えのもとUNCRDはCOP10でサイドイベントなどを行いました。
7.国際国債機関は外国を相手とする仕事が中心である為、日本国内を対象とする事業を行うことが難しく、結果としてその活動が日本の一般社会に理解されることが難しいという面があると思います。しかしながら日本は国連の大きなドナーであり、その国民の支持を得ることは活動を続けるための積極的な支援を得るという視点から重要であると思いますが、UNCRDではこういった側面に対しどのようなことを行っていますか。
‐活動内容に対してドナー国の国民から理解を得ることは、国際機関の重要な仕事の一つです。UNCRDでは国内向けの活動として、学生・大学院生・社会人・留学生向けのスタディ・キャンプ、小中高及び大学、地域の団体を対象とした国際理解教育のための職員派遣タイプの派遣プログラムと、学生がUNCRDを訪れる受け入れプログラム(グローバルパートナープログラム)、一般向けのUNCRDセミナー、そしてボランティア・インターンの受け入れなどを行っています。
8.ここからは小野川所長のこれまでのキャリアについて教えてください。
‐1972年に環境庁(省)に入ってからは、環境庁にベースを置きながら数々の国際機関での仕事を経験してきました。たとえば国連環境計画(United Nations Environment Programme, UNEP)や国際応用システム解析研究所(International Institute for Applied Systems Analysis)、中東欧地域環境センター(Regional Environment Center for Central and Eastern Europe)などです。環境庁で働きながらこれらの仕事にも従事し、2002年にこのポストに応募し、UNCRDの所長に就任しました。
「国際機関で働くためには、インターンなども活用しながら様々な職場で経験を積んで自分を磨いていくことが重要だと思います。」様々な国際機関で活躍され、援助を受ける側の途上国でのプロジェクトだけでなく、援助国である日本での活動も精力的に行っているUNCRDの小野川所長のインタビューでした。
