第14弾 アジア太平洋統計研修所(SIAP) ダバスーレン・チュルテムジャムツ所長インタビュー

日本模擬国連の田中友実(上智大学2年)と矢田結(東京外国語大学2年)が,アジア太平洋統計研修所(Statistical Institute for Asia and the Pacific、以下SIAP )のDavaasuren Chultemjamts所長にお話を伺いました。
1.SIAPのビジョン“To act as catalyst, stimulating economic and social development through building skills of statisticians”はとても明確ですが、SIAPは国連の他の機関の中でも特殊なものの一つであると思います。SIAPの国連機関としての活動を教えていただけますでしょうか?
—加盟国の持続可能な発展は、平和と安全の維持、人権に加えて国連の重要な使命のひとつであると思います。そしてその発展のためには、適切な、最新の信頼ある統計結果は欠かすことのできない要素です。SIAPは1970年5月、アジア・太平洋地域の開発途上国における有能な国家統計職員の深刻な人材不足と、国家、国際統計職員を育成するための機関の欠如を受けて設立されました。私たちの使命は大きく分けて二つあります。ひとつはESCAP(アジア太平洋)地域における発展途上国の政府職員、国家統計職員を育成すること。そしてもうひとつは、多数国共同による取り組みやプロジェクトを通して、各国における統計職員の育成能力を向上させることです。
2.他の国連機関との協力はあるのですか?
—もちろんあります。SIAPは統計専門家を中心とした10人の職員(5名の講師を含む)と数人の専門家によって構成されていますから、他の機関との協力は重要です。UNDPが主ですが、他にもUNFPA(国連人口基金)、世界銀行、IMF(国際通貨基金)、ADB(アジア開発銀行)などとも連携を取っています。
3.SIAPはMDGs(ミレニアム開発目標)や他の開発に焦点を置き、高いスキルを持つ統計職員の育成を通してそれらに貢献なさっていると思います。では、MDGsや持続可能な発展を達成する上での統計学の役割とは一体どのようなものなのでしょうか?
—その質問に答える前に、まず“政策・意思決定要素”としての統計の重要性をお話したいと思います。
“政策決定要素”とはなんでしょうか?各国政府は限られた制約の下で国民の生活をより改善するべく政策立案を行なっていますが、簡単に申し上げると、その際に決め手となるもののひとつであると考えてください。どの分野においても、まずは“現状”を把握すること。そこから必要な政策や意思決定がおのずとわかります。そして統計はその“現状”を把握する上で欠かすことのできない要素であると思います。これは何も政策だけの問題ではありません。民間企業もまずは市場調査から始めるでしょう。それと同じです。
また政策とは一度決定したら終わりではなく、その後の結果や政策がもたらした影響から価値を見極める必要がありますね。その際にも統計は十分な力を発揮するのではないでしょうか。もちろんそのために政府は、常に高水準の統計結果を測定、分析、解釈することのできる有能な専門家を有している必要があります。
今日のアジア・太平洋地域における統計能力の発展は目覚ましく、ほとんどの国においてMDGsの達成状況を把握するだけのデータは得ることができます。しかし依然として、信頼性の高い統計結果を得ることのできる充分な能力と知識、経験を有する人材不足に直面しているといえます。まだまだ人材育成、特に私たちSIAPの提供するトレーニングプログラムは必要とされているのではないでしょうか。
4.SIAPには日本政府やJICA(国際協力機構)と協力して行うプロジェクトもあり、嬉しいことに日本はホスト国として、金銭的なサポートも行っているとのことです。では日本、ないしは私たち日本人のSIAPへの貢献はどのようなものが考えられるでしょうか?
—日本の統計システムはとても進んでいますし、統計学の専門知識がアカデミックの場だけではなく民間セクターにも浸透していますね。その両方がSIAPにとって大変貢献していると思います。
日本の発展した姿も重要なポイントです。研修生たちは日本の社会システムや日本人から、自国の発展に通じる多くの教訓を学ぶことができるのですよ。日常生活のIT化や時間に正確な鉄道サービス、整備された道路や公園、町の治安の良さなどは研修生たちにとって、自国の発展をイメージする上での大切な経験となると思います。
5.SIAPの事務所は千葉市幕張にありますが、それはなぜでしょうか?またその利点としてはどのようなものがあるのでしょうか?
—SIAPはアジア経済研究所(Institute of Development Economies、以下IDE)とオフィスを共有しており、ありがたいことにIDEのカフェテリアや図書館を利用することができます。IDEのおかげでSIAPはより快適に活動を行なうことができているのです。
SIAPは1999年にIDEと共に市ヶ谷から幕張へと事務所を移転しました。幕張は日本でも最も近代的な地域のひとつですね。産業発展と技術革新とが内包された都市の姿は、研修生たちに自国の将来像をかき立てることと思います。彼らにとっての衝撃は大きいと思いますよ。
6.SIAPのウェブサイトに掲載されている写真を見ると、様々な国から研修生が集まっていることが分かります。実際、研修生の多くはアジア・太平洋地域から来ているとのことですが、そのような国際的な環境は研修生にとってどのような魅力があるのでしょうか?
—私たちSAIPは設立から2010年7月までに、これまで125カ国から約12000人もの研修生を受け入れてきました。そのほとんどはアジア・太平洋地域からの参加者ですが、他にも西アジア、アフリカ、ヨーロッパ、そして中南米からも多く研修生を受け入れています。SIAPの研修を受けた多くの方々が、今は国の統計機関の中枢を担って自国の発展に貢献しているのはとても嬉しいことですね。
SIAPのトレーニングプログラムにおける特徴のひとつは、研修生たちのつながりにあると思います。研修生同士の地域内だけではなく、地域を越えた交流、友人関係やネットワークの構築によって彼らはお互いに信頼し合い、統計専門家としての自信を得るのではないでしょうか。またこのようなつながりは国家統計局間におけるコミュニケーションを強化すると思いますし、それぞれの国の統計プログラムが連携することは、様々な統計分野の知識の普及を手助けすることと思います。
この“国際的な環境”はSIAPの強みともいえますね。今日、統計職員には国際的な視野が必要不可欠となっています。為替レートや収入の違いなど、相互の比較が重要となっていますし、途上国の統計職員は国際的な統計の役割をもっと知るべきだと思います。私たちSIAPはそのサポート役となるのではないでしょうか。
統計専門家の国際会議に出席していただければ、発展途上国からいかに多くのSIAP研修生が参加しているかがおわかりいただけると思いますよ。
7.今年の8月31日にはSIAPの40周年記念式典が渋谷にある国連大学にて開催されます。SIAPのこれからの展望を教えていただけますでしょうか?
—“To be a premier center of statistical capability building for official statisticians.”
現在では多くの国際機関が途上国に対して、統計に関するトレーニングを提供していると思います。SIAPもこれまでの40年間、国家と国際、両方の側面における発展に貢献して参りました。これからはそのような機関とも連携し、より良い形で私たちのサービスを提供していきたいと思います。
8.最後に、Davaasuren所長のこれまでのキャリアが今のお仕事にどのように影響なさっているかをお聞きしたいと思います。そしてDavaasuren所長のように国際的なフィールドで活躍することを目指している学生へ、アドバイスをお願い致します。
—まずなによりも、素晴らしい方々に囲まれてここまでのキャリアを歩んできたことは私にとって本当に大きなことだと思います。出会った教授はもちろん、モンゴル大学での教授としての仕事。私はモンゴル出身なのですよ。モンゴルの国立大学ではパートナーとしても働いていました。その後アメリカ、ロシアで学んだ後モンゴルの統計局長として勤務していました。その間もヨーロッパ、アメリカなどで国際的な活動にも携わっていて、ロシアで講義をしていたこともありましたね。それらの経験全てが今の私を支えていると思います。そしてどんな時にも言えるのが、本当に良い人々に囲まれていたということ。出会った方々から多くのことを学びましたし、感謝もしています。それは今日出会ったあなた方も例外ではないのですよ。私はお二人から得たものもあると思っています。人と人とが交流して、お互いに高め合っていく関係が私は好きですね。
とても一生懸命で素晴らしい姿勢を持つ学生のみなさんには、国際的なフィールドに対する興味を大事にしてもらいたいと思います。努力をすること、幅広い知識を得ること、よい経験を積むこと、そして恥ずかしがらずに積極的に行動すること。私がお伝えしたいことはこれだけです。
インタビュー後Davaasuren所長みずから研修生、講師のみなさんを紹介してくださいました。授業後にもかかわらず多くの研修生の方や講師の方々が協力してくださり、本当に素晴らしい経験をさせていただきました。
SIAPの講義室には一人ひとりのネームプレートが置かれており、その国名の多さからトレーニングプログラムの参加者がいかに多様であるかを見て取ることができます。
残ってお話を聞かせてくれた研修生のみなさん、事務所を案内してくださったAloke Kar講師、そしてDavaasuren Chultemjamts所長、本当にありがとうございました。