第15弾 国際連合食糧農業機関(FAO)日本事務所 横山光弘所長インタビュー
日本模擬国連の山下麻里奈(東京外国語大学2年)渡邊藍(明治学院大学2年)が,国際連合食糧農業機関(FAO)日本事務所所長 横山光弘様にお話を伺いました。
1.FAOはどのような活動をしている国連機関でしょうか。
FAO 国連食糧農業機関は、世界の農林水産業の発展と農村開発に取り組む国連の専門機関です。開発途上国を中心に貧困と飢餓に苦しむ人々の栄養状態と生活水準を改善することによって、すべての人が健康な生活を送れるようになることを目指しています。FAOの仕事は主に4つあります。
第1に情報を収集・分析することです。世界の農林水産業に関する統計データを整理するとともに、世界の食料・農業に関する白書や食料不安の現状等の様々な情報を世界中の誰もが無料で入手できるように提供しています。
第2に国際的なガイドライン・条約をつくることです。例えば、国ごとに規格が異なっては円滑な貿易ができないため、食品の規格をつくります。このほか、漁業資源を守るための責任ある漁業のための行動規範等を策定しています。
第3に世界の農林水産業の問題や政策について各国が話し合う中立的な場を提供することです。昨年の11月には食料安全保障に関するサミットを開催しました。
第4に開発途上国に対して知識や技術を提供することです。農業等を営む人々に対して現地で技術協力を実施しています。例えば、パキスタンやハイチなどで農業復興の支援が行われています。また、イベントやテレビなどのメディアを通じて開発途上国の飢餓問題について世界に情報を発信し協力を呼びかけるテレフード・キャンペーンを行っています。その一環として、一般の方や食品企業から集められた募金により開発途上国における食糧増産のため小規模な「テレフード・プロジェクト」が実施されています。
2.食料安全保障とはどのような意味や意義を持つのでしょうか。
FAOは食料への権利という考え方を提唱しています。すべての人間は食料を得る権利を本来持っていますが、経済・社会状況から十分な食料を得ることができない人々が今でも9億人から10億人います。このような食料安全保障の問題が、内戦やテロなど様々な問題の根源的要因となっていることは言うまでもありません。飢餓・貧困を解決しなければ、これらの問題を解決することは困難です。すべての人間の食料の権利が実現され、食料安全保障が確保されることは世界の平和や安全の基盤であり、それなしでは全人類が世界の平和と安全を享受することはできません。
3.生物多様性条約第10回締約国会議が日本で開催されますが、食料安全保障において生物多様性はどのような重要性がありますか。
生物多様性は、食料安全保障を確保する上で大変重要な意味を持ちます。一例をあげると1840年代アイルランドでジャガイモ飢饉が発生しました。当時、アイルランドでは一つのジャガイモの品種しか生産していなかったため、ある伝染病が侵入した際にジャガイモがほぼ全滅し、多くの人々が餓死してしまいました。同じジャガイモであっても、特定の伝染病に対しは抵抗性のある品種もあれば、ない品種もあります。一つの品種だけ生産することは、伝染病が侵入した場合のリスクが高くなることを意味し、多様性を確保することは、食料安全保障のために不可欠です。
また、新たな病害虫が出てきた場合、あるいは、気候変動によって農作物生産に影響が出た場合など、私たち人間が環境に適した品種に改良するなどこれに対応していく必要があります。品種改良をするための素材が少ない、つまり生物多様性が確保されてなければ、人間の対応能力が狭められてしまうのです。また、最近ではミツバチが減少している問題がありますが、食料生産は、植物だけでなくミツバチのような花粉媒介者等によっても担われおり、これらも含めて生物の多様性を確保することが重要です。このように、生物多様性の確保は食料安全保障上 重要な意味を持ちます。
4.FAOと日本政府の協力とは、具体的にはどのようなことが挙げられるでしょうか。
大きく分けて2つあり、1つはFAOと日本政府は開発途上国に対する技術協力のパートナーです。今年はハイチにおける農業復旧の支援活動のペートナーを組みました。主に日本政府は資金を提供し、それをもとにFAOは事業を実施しています。このほか、アフリカのウガンダ、ブルキナファッソ、エリトリアやアフガニスタンなどでも日本政府の協力を得て、FAOが技術協力事業を実施しています。
もう1つはFAOと日本政府は国際的なガイドラインやルールづくりのパートナーです。最近では、責任ある外国農業投資を推進するため、行動規範の作成に取り組んでいます。
5.近年ではFAOと一般民間企業とNGO・地方公共団体・教育機関・個人に至るまで国際協力関係の活動主体が拡大しているそうですが、FAOと一般企業、またFAOと個人、以上2点の協力内容を教えていただけないでしょうか。
まずFAOと民間企業の関係ですが、民間企業にはテレフード事業のドナーとして協力いただいています。また、食品関連の民間企業は、事業を展開するに当たり、FAOの農林水産業関連の統計データや様々なレポートを活用されていると思います。
次に個人との関係ですが、テレフード募金にご協力いただいたり、ボランティアとして仕事を手伝っていただいたりしています。また、FAOが主催するイベントやセミナーに参加していただくこと自体がFAOとともに協働することになります。最近では、FAOは、10億人の人たちが暮らすのは慢性的な飢餓の中というThe 1 billionhungry project(10億人飢餓プロジェクト:http://www.1billionhungry.org/)を展開しています。現在10億人近くもの飢餓人口がいますが、この状況を改善したいと多くの方が思っているでしょう。この思いを各国政府首脳に伝え、飢餓問題の解決を最優先課題として取り組むよう訴えるため、署名活動を行っています。
6.そもそもなぜThe 1 billionhungry project(10億人飢餓プロジェクト)を行わなければならない、10億人もの慢性的な飢餓状況が続いているのでしょうか。FAOが国際社会や各国政府に対しどのような行動を期待していますか。
飢餓の問題というのは2007年から2008年にかけて食料価格が高騰した時はマスメディアも大きく取り上げられましたが、一旦価格が落ち着いてくると人々の関心は薄れてしまいがちです。しかし、多くの飢餓人口が存在するという根本的なところは、何ら変わっているわけではありません。
これまで、開発途上国においても、また、国際社会においても食料・農業問題は軽視されてきました。開発途上国の国家予算に占める農業予算の割合、そして、先進国のODA(政府開発援助)に占める農業部門の比率は低い水準にとどまっています。ODAに占める農業分野の比率は、1980年代は約17%でしたが、今や約5%となっています。また食料・農業分野は先進国の援助政策のみならず、開発途上国における国内政策の優先順位の中であまり高く位置付けられてきませんでした。したがって、開発途上国・先進国ともに農業を重視する開発戦略に転換し、農業分野への投資を増大することが必要です。近年、アフリカやハイチなど貧しい国では、国内の食料生産が伸びず輸入に頼るようになっています。輸入に依存していると2007-08年のように食料価格が暴騰すれば、輸入価格も高くなり貧困国の人々は食料を手にいれることが困難になってしまうのです。貧困国は自国の農業を立て直す必要があり、それを支えるため、先進国は農業支援を拡充すべきであると考えています。
7.日本で発生した口蹄疫に対しFAOは警告を行っていましたが、このような国内の問題に対してFAOはどのような対策をするのでしょうか。
口蹄疫のような家畜の伝染病に対して、開発途上国には技術・資機材の支援を行っています。一般に、先進国は自国で解決できる能力がありますが、開発途上国の場合は、支援が必要です。家畜の伝染病は国境を越えて、広がっていく問題であるため、FAOは、その状況を常に監視し、WEBサイトなどで世界に情報を提供しています。食料の分野でも国際化がますます進展していることを踏まえ、FAOは、家畜伝染病や病害虫の発生について24時間体制で世界中の問題を監視するために危機管理センターを設けています。
8.以下の質問では横山光弘所長ご自身について伺いたく思います。
国際機関で働こうと思ったきっかけは何でしょうか。またFAOで働く以前のキャリアも教えて下さい。
2006年にFAO日本事務所の所長として就任しました。それ以前は約30年間農林水産省で仕事をしてきました。農林水産省でのキャリアとしては、若い時から、国際問題に携わる機会が多くありました。1980年のFAO総会に日本政府代表団の一員として出席したことが私とFAOの最初の関わりでした。また、外務省に出向しての中南米諸国への円借款を担当したり、通算6年間に及ぶアメリカ勤務、このほかOECD(経済協力開発機構)やWTO(世界貿易機関)の会議への参加や中国政府と貿易交渉、ASEAN(東南アジア諸国連合)との協力強化などに携わってきました。
こういった仕事を経験する中で、国際機関の中で働いてみたい希望は醸成されてきましたが、ちょうど、農林水産省を去る時期とFAO日本事務所の所長ポストが空く時期とが重なり、FAOで働くことになりました。
9.FAOの日本事務所の所長としてどのようなお仕事をされているのでしょうか。
大きく分けて2つあり、1つは日本政府との連絡調整です。例えば、日本政府からFAOに対する資金提供が円滑に行われるよう働きかけたり、様々な会議等が円滑に進むよう日本側との調整を行います。
もう1つは、FAOの知識やデータ等を日本国民の皆さんに伝えていくことです。手段としては、WEBサイト・出版物・セミナー等さまざまです。特に、今年は日本における「National alliance against hunger」飢餓撲滅のための連帯というフレームワークを立ち上げるため、NGO・食品企業・大学教授等の協力得ながら、その準備作業をしています。現在いくつかの国には連帯というフレームワークがありますが、日本ではまだ形成されていないので、今年度中にフレームワークを立ち上げる予定です。
貴重なお話ありがとうございました。
