第9弾 国際通貨基金(IMF)アジア太平洋地域事務所(OAP) 有吉章所長インタビュー


(有吉章所長は2010年3月末付けで退任されます)

目次


インタビュー前編:IMFの仕事とは他

●IMFのお仕事の中といえば、なかでも融資プログラムが最も有名かと思いますが、一般の人が理解する「銀行の融資業務」との違いをわかりやすく教えていただけますでしょうか。民間金融機関と共同でプロジェクトを行うこと等はないのでしょうか。

いい質問です。1944年のブレトンウッズ会議で創設が構想された際、国際通貨基金(IMF)という名前が決まったのですが、ケインズは、「IMFは銀行という名前に、世界銀行は基金という名前にすべきだった」と発言したという逸話があります。IMFが貸すのは、国に対してです。それも、プロジェクトや設備投資に対して貸すのではなく、外貨準備を積み増すために貸すというのが仕事です。

外貨は輸出入に欠かせないものですが、輸出がうまくいかなかったり、外国からお金を調達できなくなったというような国に、それも一時的な環境の変化によって陥ってしまった状況に対して、国内の経済が圧迫されるのを防ぐために融資をおこなっています。

民間銀行との違いですが、民間銀行でも国にお金を貸しているところはあると思います。ただし、金融危機に陥っている時にIMFが融資をすることによって、この国には返済能力がありますよ、貸しても大丈夫ですよという一種の証明になります。それを示すことによって、民間銀行も融資を行うことができるようになります。世銀などもそうですね。

●一時的な危機、ということですが、それでは恒常的に困難な状況になっている国、というわけではないのですね。現在の最大借入国には、ハンガリー、ウクライナなど中欧の名前があがっています。

そうですね。各国の金融状況がよければ、融資をすることはあまりありません。一方、非常に貧しくて借り入れても返済が困難という国には、普通の融資ではだめで、長期の、援助のような融資が必要なので、IMFが対象とする相手ではありません。

借入金の金額規模が大きい国といえば、やはり中進国で、かつ経済状況が悪くなったという状態です。そういう国は、もともと経済の規模が大きいですし、民間銀行からも借り入れをしていますから、危機に陥った時も必要な資金の量が違いますね。特に今回の国際金融危機では、そういった国は増えています。

●IMFは「世界経済見通し」などの調査でも国際社会に大きな影響を与えていると思います。世界各国の政治力学に影響をうけることはありますか。

IMFは独立した存在ではありません。国連機関がそうであるように、加盟国の出資によって、2国間の取組ではなく、よりよい国際機関を設立しようという意志によって設立されました。従って、IMFと各国という対立構造ではなく、各国がやってほしいことをIMFがやっている、という認識です。

しかし、その中で時々指摘されるのは、途上国の意見が十分に反映されていないのではないか、ということです。IMFの議決権の割り振りは一国一票ではありません。議決に大きな力をもたない国からは、IMFは自分たちの機関ではない、と思われてしまいます。そのため、G20では議決権の再配分について意見が表明されました。

政治力学に影響を受けている、というよりは、政治力学を適切に反映しながら、各国の合意が得られる仕事をおこなってきたといえるかもしれません。


インタビュー後編: アジア太平洋地域事務所とは他

●有吉所長がいらっしゃるオフィスのお名前は「アジア太平洋地域事務所」ですが、これは日本がアジア太平洋地域のIMFの業務においてリーダーシップをとっているということでしょうか。

日本人としてはそうだとよいのですが。東京にあるアジア太平洋地域事務所というのは、アジアとIMFをつなぐ窓口業務を行っている事務所です。そのため、アジアの経済状況のモニタリングや、国際会議・セミナーに出席することも重要な仕事です。日本の経済規模は大きいですから、実際様々な意味で、東京に事務所があると非常に便利なのです。

●これまでの有吉所長の幅広いご経歴の中で、IMFの仕事はどの点がとりわけ面白いと感じられますか。

日本で公務員をしていたときも国際金融の仕事を担当していたのですが、日本政府での仕事もIMFでの仕事も、今回の国際金融危機の問題やG20の問題など、取り組んでいる課題は共通です。違いがあるとすれば、IMFは中立的な専門家という立場で財政面を支援するということですが、各国政府は世界全体の利益というよりは国益を考えるのが仕事です。また、IMFの仕事の面白さは、エコノミストの集団であるというところにあります。ここは、国際公共的な仕事を志望するプロフェッショナル同士の世界なのです。

●IMFは中立的な立場を重んじていらっしゃるようですが、実際IMFには堅い印象があります。IMFの広報イメージ戦略についてどのようにお考えですか。

1990年代の後半まで、IMFが付き合うのは政府、しかも財務省と中央銀行だけでしたので、IMFにはしばしば「secret」という形容詞が用いられました。あまり世の中に情報を発信せず、どちらかといえば、情報を表にださないことが良いことだ、という意識が強かったのです。

その後のアジア通貨危機などで、結局経済政策を変更するには、各国がオーナーシップを発揮し、各国自身に「この政策は大事だ」という認識をもってもらわないとうまくいかないということが明らかになってきました。

IMFが各国に行う助言は、経済的にみれば必要なものですが、痛みを伴うこともあります。それを政府が国民に説明するときに「IMFにいわれたから仕方なくやっています」という形で発表する空気があり、IMFもそれをよしとしていました。「政策的な理由のために、IMFを悪者にする必要があるのならば、どうぞ、使ってください。」という姿勢だったのです。

とはいえ、いまだマクロ経済はプロの世界というところもあります。このような経済的効果があって何人の子ども達が学校に行かれるようになりました、という生活に密着したような成果というよりも、財政赤字をなくし、インフレを抑制するという成果が強調されます。しかし、インフレも、貧しい人々に真っ先に影響を及ぼすものです。IMFが財政支援政策のアドバイスを行うことで、より幅広い人々に利益をもたらすと同時に、それが理解されるようにしていきたいと思っています。(了)


GMUN日本代表派遣プログラムは、外務省「いっしょに国連キャンペーン」の協力団体として、メールマガジンのインタビュー作成を担当しています。メールマガジンのバックナンバーはこちらからご覧頂けます。

最終更新:2010年3月10日

 

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