第5弾 国際労働機関(ILO)駐日事務所 長谷川真一代表インタビュー
目次
インタビュー前編:LOの活動とは/なぜディーセントワークが重要なのか/日本政府との協力
●ILOは1919年に国際連盟と共に成立した歴史ある機関ですが、現在はどのような活動を行っているのでしょうか?また、ILOの21世紀の目標である「全ての人にディーセントワーク(人間らしい、まともな仕事)を確保すること」は何故重要なのでしょうか?
ILOは1919年に設立されて、今年が90周年になります。ILOは国際連盟と共に設立され、世界平和を目指すというのがその究極の目的です。しかしながら、社会正義を基礎にしないと究極的な平和は実現されません。世界平和のために、労働条件の向上や改善を通じて社会正義を実現するというのがILOの目的です。
現在の活動は大きく2つあります。一つ目は、ILO条約に代表される国際的な労働基準、労働基準のグローバルスタンダードを作り、普及させること。そして批准した国に対して、条約が守られているかを監視するという、基準の設定及び監視活動というのが一つ目の柱です。
二つ目は技術援助です。発展途上国と先進国は労働条件からみても大きな格差があるので、途上国に対して主にILO条約の批准にむけた努力を支援しています。
ディーセントワークについて、現在は「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されています。ディーセントワークとは仕事があるだけでなく、その仕事の質が保障されてなければいけない、ということです。仕事があっても、それが強制労働や児童労働ではいけませんし、ワーキングプアーであってもいけない。一定の質をもった仕事が全ての人に行き渡ることが大事なのです。
仕事は生活の基礎で、生活を成り立たせる上で必要不可欠であることは言うまでもないですが、同時に仕事というのは自分が社会と繋がる基本的な場所なのです。人間の尊厳と深く結びついています。そうした理由から、きちんとした条件の下での仕事を大事にするというのが、ディーセントワークです。
●日本政府はILOにどのように協力しているのでしょうか?また、どういった点での協力に日本政府の優位性がありますか?
まず、ILOの意志決定は加盟国の政労使(政府、労働者、使用者)の三者によってなされる機関です。国連では唯一、非政府機関である労働組合、使用者団体が意志決定に直接関係しているので、ILOと日本の関係というのは、つまり日本政府、そして日本の労使との関係ということになります。
この三者がILOとどのように協力しているかということですが、日本はILO活動全体を決める理事として活動しています。具体的には、日本の政労使代表の三者が現在のILOの理事を務めています。理事は政府から28人、労使からそれぞれ14人で合計56人いるのですが、その中で日本からは3人の理事が活躍しています。
次に、資金面での協力です。ILOも国連と同じ分担金で運営しています。加盟国が183ヵ国と国連と異なり少し少ないのですが、分担金の計算の仕方は国連と同じようにしていますので、現在日本は16.6%の分担金を負担しています。これはアメリカに次いで第2の分担金負担額です。また、日本からは任意の拠出があり、主に技術協力の活動に対して支援頂いています。例えば厚生労働省からは、日本がお金を拠出し、実際の技術協力はILOが実施するという形式の「マルチ・バイプログラム」に対して支援があり、また外務省からは人間の安全保障基金を通じて支援頂いています。
日本がどのような協力について優位性があるかということですが、例えば、日本の発展の経験や技術面での優位性があるでしょう。日本は資源がない所で発展をしてきた訳ですが、その発展の基礎には真面目に働く労働がありました。そういった経験がこれから発展しつつあるアジア・アフリカの国にとっての参考になると思います。
もう少し具体的な話をしましょう。日本が拠出金で支援している中身の話になりますが、日本は人のエンパワーメント、つまり生活、仕事に向けての本人に力を付けるといった教育訓練の分野に強いですね。また、労働安全衛生、職場における災害を減らしたり、衛生面の水準を確保するといった面は日本が大いに進んでいますので、これから産業化したり発展しようとする国にとってはとても参考になるでしょう。これは財政的な問題だけでなく、技術的な問題ですが、そういう所に日本が優位性を持っていると言えるでしょう。
インタビュー後編: 駐日代表のお仕事とは/学生へのアドバイス
●駐日代表というのはどういったお仕事をなさっているのでしょうか?また、駐日代表というお仕事のどういった点にやりがいを感じられますか?
ILOは本部がジュネーブにありますが、駐日事務所はILOの日本における大使館と言えるでしょう。それはつまり日本とILOを繋ぐ役割が期待されているということです
まず、日本の政労使はILOの構成員でもあるので、日本の政労使に対してサービスをするという仕事があります。日本の政労使からは様々な要請があります。例えば、ある問題についてILOはどんな議論をしているのか、どんな情報があるのか等を照会されることもありますので、そういった情報交換をスムースに行えるようにすることが必要になります。
更に、私の事務所の課題は、ILOの活動を日本に如何に上手く繋いでいくかだと思っています。労働や社会保障というのがILOの守備範囲ですが、政府にしても労使にしても、国内に様々な問題があるので、外国の問題についての関心がそれほど高くないという傾向があります。
例えば、児童労働という問題がありますが、日本の国内の政労使は児童労働に対し てそれほど関心を持っていない。我々としては、日本が日本以上に労働の問題を抱えている途上国に目を向けて欲しいというのが、一つの問題意識ですね。
現在、世界経済危機で雇用問題はどの国でも大変で、日本でも失業率が上がっています。しかし、それ以上に開発途上国でも児童労働の問題、移民労働者の問題等が出てきています。それらの問題に対して、もっと日本から目を向けて欲しいと思っています。
逆に、ILOも日本に対してもっと目を向けて欲しいという思いもあります。やはり国際機関に日本人が少なく、英語で発信される日本の情報が少ないので、日本で起こっていることがあまり外に発信されていません。日本の労働なり社会保障の情報や知識、経験を国際的な議論の場に発信されるようにするというのがもう一方の仕事です。
そのように考えると、あまりそういう分野で活動している人が少ないのが現状ですので、そういう意味ではやりがいがある仕事だと思います。やるべきことが色々あります。もっと日本の経験を知っていたらILOも上手くやれるだろうなと思うこともありますし、日本でも国際的にやっている議論とは違うことを議論していることもあります。日本と国際的な場との距離を縮めるという点ではまだまだやることが多くあり、我々が上手く機能すると成果が上がるのですから、そこにやりがいを感じています。
●日本には将来国際機関への就職を考える若者がたくさんいます。そうした若者に、何かアドバイスを頂けますか?国際機関で働くにはどのような能力や心構えが必要でしょうか?
私は最初、日本の役所に入り、4年程働いてから、まずアソシエート・エキスパートとして国際機関に入りました。そういう経験から見ると、日本の組織と国際機関には大きな違いがあります。例えば、国際機関に専門家として入るというのは一人前であると言うことを意味します。日本の会社や官庁に入ると、まずは先輩が教えてくれるだろうという期待もあるし、実際その通りですが、国際機関では誰も訓練してくれませんので、最初から専門職に就くことは難しいと言えるでしょう。
また、仕事の内容と責任が明確になっているのも大きな違いです。自分に任された仕事がきちんと出来ていれば他に何をやろうが、あまり関係がありません。それから、国際機関では自分から動いていかないといけません。待っていても仕事も情報も来ない。このあたりが日本の組織と国際機関の組織の大きな違いかなと思っています。
そのような違いを前提として、日本人として国際機関に入るときに何が大事かというと、やはり最初から一人前として扱われるという観点から、専門分野の知識なり経験というのが大きいですね。インターンや見習いといった仕事の経歴が重要で、そういったことを積み重ねていくことできちんとしたポストにつける。それに加えて適応力や語学力、そんなことが基本的な能力としては必要だと思います。
国際機関で働く際の姿勢としては、やるかやらないか迷ったらやった方が良いと私は思います。機会があってどうしようかなと思ったら、先に進む方が良い。先に進んだら何とかなる、という楽観的な気持ちというのが大事だと思いますね。自分が思っているより、自分には能力があると思っていた方が良い。私も自慢するわけではありませんが、高校と大学では英語が一番苦手で、仕事の世界に入ったら英語だけはやりたくないと思っていました。それでも今は国際機関に勤めています。
何故かというと、日本で色々仕事をしているうちにこれは外国に出ないといけないなと思ったからです。そこで、外国に出て仕事するには英語を勉強しなければ、と思い勉強しました。ただ、行けばなんとかなると思っていたけれど、実際に行ったら大変だったというのは確かです。それでも追い込まれて一生懸命にやっていれば、意外と何とかなるものです。初めて外国に出て、国際機関に勤めて半年くらいは死ぬ思いだったけれど、その後自分が英語で書いた文章を見て惚れ惚れしたという経験がありますね。
そういう訳で私は、人間は自分が思っているよりもやれるものだと考えています。楽観的に構えて下さい。色々聞かされると、国際機関で働くのは大変だと思うかもしれませんが、努力をしていけば何とかなる、私はそう思います。(了)
GMUN日本代表派遣プログラムは、外務省「いっしょに国連キャンペーン」の協力団体として、メールマガジンのインタビュー作成を担当しています。メールマガジンのバックナンバーはこちらからご覧頂けます。
最終更新:2010年3月7日
