「紛争下における性暴力の戦略的使用への対応」について、ユニセフの枠組みで議論するという会議設定が与えられており、これについてデンマークの立場から政策提言を行う。
紛争下での性暴力の戦略的使用には様々な要因がある。戦略的有用性が高いこと、法の支配の失われている紛争下および復興期に法的対応をとるのが困難なことに加え、女性の社会的地位の低さが様々な形での性暴力の使用を促している。
今日の国際社会では、国際刑事裁判所の設置による法の支配の回復や安全保障理事会決議1820・1888による使用の抑止の動きが見られるが、これらはユニセフという今回の会議設定上、議論することが不適切だと考えられる。したがって、性暴力の戦略的使用への直接的対応よりも、それを促進している社会環境の改善に焦点を当てることとした。また、国家の主権に大きく干渉するようなものは、ユニセフの性質上相応しくないと考え扱っていない。
デンマークは政治家に占める女性の割合が最も高い国の一つであり、ジェンダー間の平等を援助外交の一つの方針として重視している。また、女性の政策決定への参加を主張する安保理決議を支持している。このような背景から、女性の社会的地位の向上を今回の政策提言の方針の一つとした。また、同時に、性暴力の被害者を含めた女性のニーズに敏感な社会の構築も目指した。
政策は全部で3つ。「需要に対応した職業訓練」「女性教員の増加と学校を中心とした社会再建」「緊急事態への対応における現地視察の増加と社会再建の政策決定への女性政治家の参加」である。これらはすべて平時をも視野に入れたものだが、特に紛争後の社会再建期に焦点をあてたものである。
1. 需要に対応した職業訓練
現在の国際社会はEFA-FTIを中心に初等教育の完全普及への取り組みを強めている。初等教育は女性の低い地位の再生産を防ぐことを可能とするが、対象とする年齢に制限があるためにそこから外れた人には教育が提供されないことが問題としてある。また、女児については、その社会的役割故に修了率が未だ低位に留まっている。中等教育・高等教育が進んでいる国においても、その教育の内容が実際の需要に適したものでないために社会的地位の向上につながらない場合が多く見られている。こうした問題に対応するためにノンフォーマル教育による補完が必要であり、特に復興期においては被害者女性の社会への再統合を促すという意味でも経済的なエンパワメントが重要であることから、職業訓練の必要性は高い。ここでは社会の需要を出来る限り正確に把握する必要があるため、海外の私企業や大学なども動員した社会状況の調査を行うことを提言する。
デンマークの援助政策に照らしても、デンマークが主催したAfrica Commissionの最終報告書に見られるように、デンマークは、現地の私企業の育成に重点を置いており、この提案はそうした自由市場の育成とも整合性のとれたものだと考えられる。
2. 女性教員の増加と学校を中心とした社会再建
性暴力と関連した紛争下及び復興期の教育の課題として、教員による生徒である女児への性暴力や女児のニーズへの配慮の欠如が挙げられる。そうした問題を解決するために女性教員の増加が求められている。紛争下と復興期には人的資源(教員)および物的資源(教材や学校)の不足が教育環境の深刻な問題となっているが、これに対し、ユニセフは他の機関と連携して現地人を教員として育成・再生産する活動を行っている。その仕組みを活かしより多くの女性教員を雇用するためには、インセンティヴの供与と社会的な束縛(たとえば家庭への拘束など)の除去とを行う必要がある。後者については広範な社会背景に迫る必要があるため、ここではむしろ前者のインセンティヴの供与に焦点を当てたい。
紛争下から復興期においては給料の未払いが深刻な問題としてあるが、それとは別の面で利点も挙げられる。たとえば、食料の配給がある程度確保されること、学校を保護することで安全が比較的保証され易いことなどが挙げられるが、女性に関して言うならば、教員という役職に就くことよってその社会的地位を向上させることができることが挙げられよう。したがって、女性の社会的地位向上を図る立場から、先に挙げたような学校の利点を更に挙げるとともに、地域の復興において学校の果たす役割を向上させることを提案する。
3. 緊急事態への対応における現地視察の増加と社会再建の政策決定への女性政治家の参加
ユニセフは緊急事態の発生を受けての業務は大きく3つの段階に分けられる。緊急事態の規模を特定するために行う3日以内の調査、1~3か月を目安に行う本格的なプロジェクトの作成のための調査、そして、プロジェクトの実施である。この二つ目の段階において、女性のニーズを把握するために現地視察を増加することが第一の提案である。難民キャンプの内外で様々な形式が考えられるが、女性のニーズを本格的なプロジェクトに反映させるためには不可欠だと言える。しかし、これには安全の面からの懸念もあり、ある程度の軍事力が伴う必要があるため、ユニセフ単独で行える質のものではない。第二の提案は国家による政策決定への女性政治家の参加であるが、これは、政府とユニセフとの間での政策調整に女性政治家が参与することで、男性政治家のみで政策決定がなされる場合に比べ、女性のニーズに配慮がなされた政策が作られるというものである。また、これは、ごく一部のものに限られはするものの女性の政治的地位の向上にも役立つと考えられる。
2の女性教員の増加にも言えることだが、このように女性の社会的な役割を上げようとする取り組みは、文化的な障害を多く伴うと考えられる。しかし、紛争下のように既存の体制が弱まっているところでは、却って文化的束縛などの影響が弱く、体制の変化を行い易い側面もある。
以上3点が今回の会議において私が提案しようと考えている内容である。