教育におけるグローバル・スタンダードの実施 (総会第三委員会)



以下ではデンマークの教育に対する基本的立場、国際社会の教育に関する枠組みと、現在の取り組みの欠点を克服するためにデンマークが提案する政策について論じる。


デンマークは国内で高い教育水準を維持しているだけでなく、途上国の教育水準を高めるための支援を行っている。アフガニスタン、ボリビアなどを対象に約310クローナ(約40億円)の政府間支援を毎年続けている。その背景にはデンマーク政府の基本的立場が強く反映されている。デンマーク政府にとって教育とは持続的開発、人間の安全保障、貿易などの促進要因であり、途上国の平和と反映には必要不可欠な要素である。それと同時に教育を受ける権利はすべての人間に保障されるべき権利である。人権保護を重視する国としてデンマークはすべての人が充実した教育を受けられるために今後も国際社会でリーダーとしての役割を担っていく。


これまで国際連合でグローバル・スタンダートという概念が教育の文脈で使われたことはない。しかしミレニアム開発目標の「ゴール2:初等教育の完全普及の達成」と「万人のための教育」に基づくダカール行動計画はそれに近いかたちで各国に認められている。したがって今会議ではいかにしてこの二つの「スタンダード」を実施するか、という点が第三委員会で大きな論点として扱われることは間違いない。だがそれ以前に、ミレニアム開発目標とダカール行動計画のどちらに重点を置くかという点で議場は激しく対立するであろう。なぜかというとユネスコの下に位置する「万人のための教育」(EFA)と世界銀行の下に位置する「万人のための教育―ファストトラック・イニシアチブ」(EFA-FTI)の間で方向性の違いが見られるからである(EFAが包括的な政治的枠組みであることに対しEFA-FTIは資金援助メカニズムであり、EFA-FTIはEFAではなくミレニアム開発目標のゴール2を基本的に目標としている点に注意していただきたい)。


現在、この対立軸の延長線上で「教育のための世界基金」という新たなアイデアが浮上している。一部のNGOはEFA-FTIが失敗したという主張を根拠にして、それに替わる世界基金を提唱している。その背景にあるのはFTIとそれを管理する世界銀行に対する根強い不満である。FTIはドナーから集めた資金を自らが正式に認定している国にしか配分しないので排他的だと批判を浴びている。さらに初等教育向けの資金しか提供しないという方針が、ダカール行動計画で明記されているようなより包括的な教育のあり方に矛盾するものだといわれている(ダカール行動計画では女性教育、成人の識字率、中等教育などの目標が設定されている)。また意思決定が不透明だという指摘もある。デンマークはFTIの最大ドナーの一つであるが、以上のような欠点を抱えていることを理解している。


しかし教育に関する国際的枠組みにおける問題をEFA-FTIのみに求める考え方は間違っている。確かにEFA-FTIに欠点があることは否定できないが、それはFTIの改革を通じて解決できるものであり、現在の枠組みは資金の不足とは独立した構造的な問題を抱えている。そのひとつは少数派の周縁化(marginalization)である。現在の枠組みでは国の平均値によって規定されており、その国の中の教育格差が考慮されない。たとえば、初等教育の完全普及のデータを見てみると最も低い水準のサハラ以南の教育水準は2002年から2006年にかけて大きく向上している。しかし国内について詳細に分析してみると、民族、ジェンダー、貧困、身分、地域、健康状態などの要因によって周縁化されているグループが存在することが分かる。このような構造的な問題は基金の問題とは切り離して考えなければならない。


以上で見てきたようにEFA-FTIとEFAの枠組みの両方を改革していかなければならない。EFA-FTIにおいては資金の対象となる国を拡大し、初等教育より幅広い範囲の教育を支援していかなければならない。EFAにおいては先ほど述べた周縁化の問題を解決する手段として新しい目標の設定、より充実したデータの収集、周縁化されているグループへの政策が求められる。国際社会は少数派や貧困層に焦点を当てた新しい目標は、ダカール行動計画とミレニアム開発目標の実現へ向けた努力に対して補完的な役割を担うべきである。しかし新しい目標によって獲得する政治的コミットメントの成果は、グループ別に集められた正確かつ詳しい統計によって初めて確認できる。ゆえに数値目標とそれに沿ったデータ収集は必要不可欠である。しかし周縁化対策の土台を作るだけでは不十分であり、実質的に意味を持つ国内政策が求められる。それは学校や教育関係者への補助金、貧困地域や少数派グループの住む地域への予算配分、教育費削減といった政策によって教育を受ける機会を政府が提供していくということである。そしていかなる教育政策も他の分野の政策と一貫しているかたちの決定・実行が望ましい。たとえばデンマークのアフガニスタンへの二国間援助はアフガニスタンの長期的安定を視野に入れた安全保障政策でもある。


デンマークの開発支援は途上国の自立と持続的開発を目標とした画期的なビジョンを反映している。その手段として、途上国の教育水準の向上のために様々な支援をしていくと同時に現在の国際的な枠組みをより完全なものへと導くリーダーシップを改めて総会第三委員会で発揮していかなければならないのである。